2022年8月24日水曜日

ダグラス・マクレガー:失敗の上塗り ウクライナの被害は回復不能になる

https://www.theamericanconservative.com/reinforcing-failure-in-ukraine/

ロシアとの戦争が長引けば長引くほど、ウクライナの被害は回復不能になる可能性が高くなる。

2022年8月23日

[U.S. must arm Ukraine now, before it's too late] と題した公開書簡で、ウクライナでの対ロシア戦争を支持するアメリカの著名な20人が、今が山場と論じている。ウクライナ軍が勝利するためには、砲兵プラットフォーム用の弾薬やスペアパーツの絶え間ない補給、ロシアの空爆やミサイル攻撃に対抗する短・中距離防空システム、ウクライナやクリミアのどこにいるロシア軍事目標も攻撃できる射程300kmのHIMARSによるATACMS弾など豊富な新装備が必要だと主張している。

一方、ワシントンやヨーロッパの同盟国からウクライナに殺到していた装備や弾薬は、今や小出しにされている。ブリュッセル大学(Vrije Universiteit Brussel)の欧州防衛アナリスト、ダニエル・フィオット氏は、「ウクライナに必要なのはハードであって、ホットエアーではない」と訴えている。また、ヨーロッパ全土で難民疲れが起きている。

ドイツやハンガリーはすでに難民の流入に耐えられなくなった。今度はポーランドが飽和状態である。ポーランドの家計は深刻な経済的逆風にさらされている。ウクライナ戦争の影響もあり、ポーランドは欧州で最も高いインフレ率(7月で15.6%)を示している。秋から冬にかけて、ベルリン、ワルシャワ、プラハ、パリ、ローマに、ウクライナ戦争の終結を求める国民の大きな圧力がかかることは想像に難くない。

新兵器システムの導入がウクライナの戦略的帰結を変えることはない、というのが厳然たる事実である。たとえNATOの欧州加盟国がワシントンとともにウクライナ軍に新たな武器を雪崩のように提供し、それが腐敗のブラックホールに消えずに前線に到着したとしても、複雑な攻撃作戦を行うのに必要な訓練や戦術的リーダーシップはウクライナの70万人の軍隊内部には存在しない。また、このような展開になれば、モスクワが紛争をエスカレートさせることを、まったく認識していない。ウクライナと異なり、ロシアは大規模な動員が可能だ。

アメリカの軍部と文民部の指導者たちは、歴史の教訓を無視している。最も重要なことは、戦争における勝利には軍服の人的資本が重要である。

1941年6月22日、ドイツ国防軍は、戦車よりも馬を多く使ってロシアへの侵攻を開始した。ドイツ軍の地上部隊は、大部分が馬搬の兵站と大砲に依存した大戦型の歩兵師団で構成されていた。ドイツ兵はまぎれもなく優秀だったが、東欧での戦争に必要な火力、機動力、装甲防御力を備えていたのは少数派であった。

ロシアに進軍した数百万のドイツ兵のうち、およそ45万から50万人がドイツの機動装甲部隊に配属され、ポーランド、イギリス、オランダ、ベルギー、フランスの相手を急速に粉砕する攻撃的な打撃力を発揮した。この兵士たちは、近代的な装備の粋を集めた精鋭たちであった。

この中核部隊を、攻勢不可能となるまでに消耗させるのに、1939年から1943年までの4年間を要した。重要なデータとしては、10月までに5万5千人のドイツ人将校が戦死したことだ。

これらのドイツ人将校は、陸軍の中でも最も優秀で経験豊富な将校たちであった。彼らは、西ヨーロッパ、地中海、東ヨーロッパの3つの戦線において、装備の不十分なドイツ国防軍をモスクワの門まで連れてくる見事な作戦を実行したのである。クルスクの戦いとエル・アラメインの戦いで攻勢を指揮したのである。

ドイツ空軍も同じような問題に悩まされていた。ドイツの産業界は最新のジェット戦闘機を提供することができたが、ドイツ陸軍が優秀な将校を補充することができないのと同様に、ドイツ空軍は優秀なパイロットの損失を補充することができなかった。

一方、山本五十六提督は、軍服における人的資本の重要性を誰よりもよく理解していた。山本は真珠湾攻撃で米艦隊を全滅させるだけでなく、ハワイ諸島を占領しようと考え、「米海軍を破るには将校を殺さなければならない」と宣言していた。山本は、海軍の将校の訓練と準備にどれだけ時間がかかるかを理解していた。結局、日本の真珠湾攻撃によって、米軍は空と海で日本軍が持つ最高の人材を殺すことができたのである。

戦争でも平和でも、人的資本がすべてである。しかし残念なことに、米国は人的資本をほとんど評価せず、兵士や将校の入学基準をやたらと低くしている。このような態度が続くと、おそらくそうなるだろうが、我が軍が最終的に有能な敵軍と戦闘で対峙するとき、アメリカ軍が緩和された基準に追いつかれるのである。

アメリカ合衆国第2代大統領ジョン・アダムスは、「事実とは頑固なものであり、我々の希望、傾向、情熱がどうであろうと、事実と証拠の状態を変えることはできない」と述べた。アダムスは今も正しい。

ウクライナのロシアとの戦争は決定的な局面を迎えている。今こそ、それを終わらせるべき時だ。それどころか、冒頭の公開書簡は、失敗を上塗りしようとしている。彼らはウクライナに対して、最悪の場合、ウクライナがドニエプル川とポーランド国境間の縮小陸封国家になるような、戦略を要求している。これらは、1990年代のクリントン政権に端を発し、ロシアを欧州から政治的に孤立させ、モスクワを北京と同盟させるという誤った政策がもたらしたものである。

NATOをロシア国境まで拡大する必要はなかった。ヨーロッパは悲惨な事態になっている。ロシアとの戦争が長引けば長引くほど、ウクライナ社会と軍隊へのダメージは回復不能になる。ウクライナのオーストリア・モデル的中立はまだ可能である。もしワシントンがウクライナとロシアの戦争を永続させることにこだわるなら、中立の選択肢は消え、NATOの有志連合は崩壊し、ウクライナは「欧州の病人」となって将来の紛争の触媒となるであろう。

著者について

ダグラス・マクレガー(Douglas Macgregor

ダグラス・マクレガー大佐は、アメリカ保守党のシニアフェローであり、トランプ政権の元国防長官顧問、勲章を受けた戦闘退役軍人であり、5冊の本の著者である。

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