2023年1月6日金曜日

露日関係は今までと違う時代を迎えるのか 日本人専門家の見解

https://sputniknews.jp/20221231/14439620.html

2022年12月31日, 07:50

スプートニク日本は、著名な露日経済関係のアナリストで、ロシア工業団地協会の顧問を務める大橋 巌氏に取材し、ロシアから常に日本に注目する人々が最も関心を寄せている露日関係の現状と、これからの展望について、見解を伺った。

スプ?トニク:日本企業の多くがロシアでの事業を終了しました。しかし、いくつかの会社(企業)はロシアで営業を続けているとのことについて読んだことがあります。 例えば、サハリン1やサハリン2のプロジェクトはそうです。 ロシアから撤退していない日本企業があるかどうか、(少なくとも割合では)ご存知ですか?

ジェトロ(日本貿易振興機構)が定期的に在ロシア日本企業を対象にアンケート調査を実施しています。12月7日に発表された最新の調査内容によると、対象となった在ロシア日本企業の数(現地法人のみで駐在員事務所は含まれない)は106社とされ、このうち62社から有効回答があったとされています。すなわち調査時点において、ロシアから撤退しておらず、営業を継続している日本企業は、調査の実施時点(2022年9月)で少なくとも62社あると言うことです。

それとは別に、帝国データバンク(TDB)が10月31日に、ロシアに進出していると同社が把握した日本企業(日本国内で株式を上場している企業)168社のうち、ロシアから撤退したか、あるいは撤退を計画・表明している日本企業は10月25日時点で75社にのぼった、と発表しています。この調査によると、90社余の日本企業が、ロシアで事業を継続していると推測されます。

ロシアから撤退していない日本企業は、在ロシア日本企業全体の何割あるかについては、明確な数字は分かりません。在ロシア日本企業と言っても、様々な定義の仕方があり、それによって割合は大きく異なるのです。明らかに言えることは、今年の2月以降、ロシアで営業する日本企業の事業環境が否定的な方向に抜本的に変化し、これまでになかったほど非常に多くの企業が、通常の営業ができなくなってしまった、という事実です。それでも、現在なお、少なからずの日本企業がロシアで事業を継続しています。

ただし、前掲のジェトロ調査によれば、そのうち赤字の企業は50%にのぼっています。ロシアに残っている日本企業は、自社の製品やサービスの供給を顧客に求められ、アフターサービスの継続など顧客との契約責任を果たそうとしているのでしょう。しかし、現在のような厳しい事業環境が続くようであれば、今はロシアに残っている日本企業も無期限に赤字を垂れ流し続けることはできず、いずれ撤退や閉業を考えざるを得なくなって来るでしょう。

スプ?トニク:多くのロシア政府関係者や政治アナリストは、2022年を日露関係にとって最悪な時期と名づけています。 今年はどんな年だと思われていますか。 現在なんらかの交渉はまだ続いていますか。人と人とのおつきあい’は残っていますか。

日本企業にとって、ソ連邦の崩壊後、試練の時機がいくつかありました。ソ連邦の崩壊時には、長年にわたり日本企業が構築してきたソ連の貿易公団との取引関係が崩壊し、ロシアに居住する日本人駐在員の生活環境も悪化しました。90年代末の金融危機時には、ロシアの国債がデフォルトし、巨大な損失を被った日本企業もありました。しかし今年は、誰も予想しないまま、まったく新しい試練が突如始まり、企業の事業環境が激変しました。この20年間、多くの人々の努力によってロシアの経済と社会の安定性と予見性が高まり、投資環境は改善され、インフラが急速に整備されてきました。日本企業を含む多くの外国企業がロシア市場に成長性を見出し、サプライチェーンを構築し、工場を建てて製品を出荷し、顧客層を拡大してきました。そうした事業発展の道が突然途絶えてしまいました。

2000年代の初頭から始まったロシアの経済・社会の近代化は、ロシアの多くの人々の努力によって、地道ながら着実に進展してきました。法制度が整備され、その運用が安定化し、生産や輸送のインフラが整備され、都市環境が改善し、企業の製品やサービスだけでなく、行政サービスの質も向上しました。至らないところはまだありますが、過去に比べて改善と発展は明らかにあったのです。私自身はその過程を始めから間近で観察する機会に恵まれ、投資環境やインフラ整備のコンセプト作りの面でロシアの専門家たちとの議論に参加してきました。

たとえば工業団地の業界を見れば、この20年間でロシアにおける工場進出環境は、ハード面でもソフト面でも目を見張る改善がありました。20年前のロシアでは、外国企業が工場を新設しようとする場合、工場の建設工事だけでなく、土地の造成や周辺道路の整備、水道・ガスの引き込みなども含め、すべて自社の負担で行わなければならなかったのです。しかも、それらを実行するための法制度もその運用も極めて不明瞭でした。官民の多くの関係者の努力により、近年ではロシアにおける工業団地の数は200か所を超え、一部の地方の投資誘致政策や工業団地管理会社のサービスの質は、国際的に見てもまったく遜色がないどころか、新興市場の中でもトップクラスではないかと言えるところまで来ていたのです。残念ながら、国際情勢の諸条件の抜本的な変化によって、日本企業がロシアに生産進出する機運は失われてしまいました。

私自身は、これまで受嘱してきたロシア工業団地協会の顧問、戦略イニシアティブ機構持続的発展プラクティス共有プラットフォームの専門家、ロシア産業家企業家連盟国際協力委員会の委員などを現在も継続しています。ロシアの中小企業や非資源部門の製造業の発展戦略を検討するストルイピン・クラブの会合にも、招かれれば参加しています。ロシアの専門家が世界に眼を開き続け、自国の経済発展に日本やアジアをはじめとする世界の経験に関心を有し、私のような外国人も議論に招いてくれる限り、また、経済制裁による様々な規制がそれを完全に妨げない限り、私は彼らとの協力関係を続けていこうと思っています。

スプ?トニク:ロシアの特別軍事作戦が終わる前に露日関係の修復はありえないというふうに思います。それだけが、両国関係更新の条件ですか。ご意見を教えていただけますか。いつか将来に露日関係がよくなるということに信じていらっしゃいますか。

ロシアの特別軍事作戦がいつ、どのような形で終了するのか、私にはわかりませんが、現在問われているのは、地政学的状況の歴史的な変化にともなう、世界の新しい安全保障秩序のあり方ではないかと思われます。その形成にはきっと大変長い時間が掛かるのでしょう。日露関係の新しいあり方も、その大きな文脈の中で模索されていくことになるのでしょう。日露関係は特に、日米関係、日中関係、露米関係、露中関係の将来のあり方にも大きな影響を受けるのではないでしょうか。

ビジネスの次元では、事業は収益性の予測に基づきます。市場の成長が予測され、サプライチェーンの構築や想定される様々なリスクに対応するコストが将来に予測される収益によってカバーされ、利益が上がる見通しが立てば、企業は事業に着手します。それはロシア市場でも例外ではないでしょう。それに加えてもうひとつ、重要な要素があると思います。それは、その国で事業を立ち上げたい、その国の発展に自社の製品やサービスをもって貢献することで自分も成長したい、と思う人材がその企業にいるかどうかです。日本もロシアもお互いに、そのような人を大切にしていけるかどうかも重要ではないでしょうか。

歴史を振り返れば、日本とロシアの間には、苛酷な時代も多々ありました。同時に、平和で安定的な時代には、お互いの国の文化や伝統に深い尊敬心を持ち、交流を深めようという人々も少なからずいました。古代ローマの時代から「歴史は繰り返す」と言われています。いつ、どのような形でかは分かりませんが、将来、日露間にも友好的、安定的、互恵的な関係が再び構築される時は来ると思います。今後の世界の政治・経済状況はどう展開していくか分かりません。その中で大切なことは、国際情勢、政治情勢がどうあっても、お互いの国に個人として信頼できる友人、パートナーがいるならば、状況が許す限り、少なくとも対話を維持し、継続していくことだと思います。

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