WSJ特派員の逮捕についてクレムリンのコメント
https://www.rt.com/russia/573860-kremlin-wall-street-journal-arrest/
2023年03月30日 11:52
ロシア連邦保安庁がエヴァン・ガースコビッチを現行犯逮捕
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)特派員のエヴァン・ガーシュコビッチが、ロシアの国家機密を入手しようとして現行犯逮捕された。クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官が述べた。連邦保安庁(FSB)は木曜日、記者がスパイ容疑でエカテリンブルク市に拘束されたことを発表した。
ペスコフ報道官は電話会議を通じて記者団に、米国人の逮捕について、ロシアが米国の治安当局と協力するかどうかについてコメントを求められた。同報道官は、事件の全容を把握しておらず、この問題はまだロシア連邦保安庁の手に委ねられていると述べた。
ペスコフ報道官は、自分の知る限り、ゲルシュコビッチ氏はロシアの国家機密に関する法律に違反して、防衛施設に関する情報を収集しようとしたところを捕まったと語った。ロシア、ウクライナ、旧ソ連のニュースを担当する特派員は、スパイ行為で起訴されれば、10年から20年の禁固刑に処される可能性がある。
ゲルシュコビッチ氏はロシアで活動するために必要なジャーナリスト資格を外務省から取得していた。FSBによると、「機密情報を受け取ろうとした際に捕まり、米国政府の利益のために行動した」とのこと。
ペスコフは、今回の事件が米国で活動するロシア人ジャーナリストに関する米国当局の対応を誘発する可能性があるかと問われ、モスクワはそのような報復がないことを望んでいると答えた。「疑惑ではない。彼は現行犯だ。」
WSJはこの事件に対し、ガースコビッチ氏の安全を深く懸念している」と表明した。
ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務副大臣は、WSJのジャーナリストを交換取引する可能性があるという問題は提起されていないと語った。
ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、ゲルシュコビッチ氏がFSBに拘束されたときに何をしていたにせよ、それは「ジャーナリズムとは関係ない」と述べた。彼女は、特派員という地位は、以前、ロシアの機密情報を入手しようとする他の西側諸国民の隠れ蓑として利用されたことがあると語った。
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https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00179/032900161/
プーチン氏が戦術核をベラルーシに配備へ、その隠れた狙いとは
2023.3.30
(聞き手:森 永輔)
ロシアのプーチン大統領が3月25日、戦術核をベラルーシに配備することで同国と合意したと明らかにしました。読売新聞は「ロシアはベラルーシに核搭載が可能な短距離ミサイル『イスカンデル』と軍用機10機を配備済みで、4月3日から訓練を開始するという」と報じています。とすると、ロシアは短距離弾道ミサイル「9M723」か、もしくは、航空機に搭載する短距離弾道ミサイル「キンジャール」に核弾頭を搭載するとみられます。プーチン氏が核の威嚇を一段強めた印象です。高橋さんはこの意義をどう捉えますか。
高橋杉雄・防衛省防衛研究所防衛政策研究室長(以下、高橋氏):軍事的に見て大きな意味はありません。政治的な意味の方が大きいと思います。既に事実上の属国と言えるベラルーシのさらなる属国化を進める。もしくは、ロシアが核保有国であることをNATO加盟国に改めて認識させ、ウクライナへの武器支援をためらわせる。
高橋杉雄(たかはし・すぎお)
防衛研究所政策研究部防衛政策研究室長。専門は国際安全保障論、現代軍事戦略論、日米関係論。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。同大学院同研究科で政治学修士、ジョージワシントン大学コロンビアンスクールで政治学修士を取得。1997年、防衛研究所に入所。(写真:加藤 康、以下同)
軍事的に大きな意味はないのですか。
高橋氏:ええ。ベラルーシに戦術核を配備しても、ロシアが持つ核攻撃力が高まるわけではありません。
9M723は、メディアが「イスカンデル」と呼ぶもの。イスカンデルは地上に配置する発射装置で、これに搭載できる弾道ミサイルが9M723。発射直後のブーストフェーズや着弾前のターミナルフェーズで変則軌道を描く能力を持ちます。キンジャールは、9M723を航空機から発射できるようにしたもの。Su-34やMig-31といった戦闘機や、Tu-22M3爆撃機に搭載することできます。
高橋氏:このうち9M723は射程が約500キロメートル。したがって、ベラルーシに配備しても、新たにベルリン(ドイツの首都)に届くようになるわけではありません。
ウクライナの首都キーウ(キエフ)にもぎりぎり届くようになるかならないかの距離ですね。
高橋氏:9M723をベラルーシに配備すればポーランドとバルト3国を射程に収めることはできます。けれども、それはカリーニングラード*に配備している現行の9M723で既に可能です。ロシアはカリーニングラードにも核弾頭を配備している推測されています。
*:バルト海に面したロシアの飛び地で、軍事拠点を配置している。他の3方をリトアニアとポーランドに囲まれている
キンジャールはMig-31に搭載する場合で射程が約2000キロとされています。これなら、ベラルーシからベルリンまで届きます。
高橋氏:そうですね。しかし、キンジャールならロシア本土からベルリンにも届くので、ベラルーシに配備する必要がありません。
このように考えてくると、ロシアの狙いは軍事的なものではなく政治的なものであると分かります。
ちなみに9M723の射程が500キロにとどまるのはINF(中距離核戦力)廃棄条約があったからです。
ロシアはINF廃棄条約を結び、核弾頭の搭載が可能な射程500〜5500キロ(中距離)の陸上配備型弾道ミサイルおよび同巡航ミサイルを開発、発射実験、生産、保有しないと、米国との間で約束しました。
高橋氏:同条約は、米トランプ政権が2018年10月に破棄する意向を表明し、19年8月に失効しました。しかし、まだ4年弱しかたっておらず、ロシアも米国も新たな中距離ミサイルを開発できていません。
ベラルーシの属国化をさらに進める
ロシアが戦術核をベラルーシに配備すると、属国の度合いを高めることができるのですか。
高橋氏:そうなります。ベラルーシは22年2月に憲法を改正し、「核兵器を持たず中立を保つ」との条項を削除しました。ルカシェンコ大統領は中立であることをやめ、ロシアの核の傘に入る方針を公にしたわけです。
同大統領はプーチン大統領を後ろ盾にすることでその地位を保っています。20年の大統領選において不正疑惑が浮上し、同大統領の退陣を求める抗議デモが拡大しました。このときプーチン大統領は、ルカシェンコ大統領の依頼に応じてロシア内務省傘下に予備警察隊を設置し、ベラルーシに介入する態勢を整え、反ルカシェンコ勢力に圧力をかけました。
こうした経緯があり、ルカシェンコ大統領はプーチン大統領の意向に沿わなければ、その地位が保てないとみられています。
高橋氏:それゆえ、ロシアの核の傘に入ることを決断したわけです。ロシアの核弾頭を実際に配備することになれば、この流れがさらに一歩進むことになります。
7月1日までに核弾頭の保管設備を設置する予定だと報道されています。そうなれば、ロシアはこれを警備すべく軍を派遣するでしょう。これもベラルーシの属国化を進めることにつながります。
ロシアはこの核弾頭をベラルーシに譲渡するわけではありません。譲渡すれば核拡散防止条約(NPT)*違反を問われます。ロシアの核弾頭であるがゆえに、ロシア兵も派遣できます。
*:米ロ中英仏の5核兵器国以外への核兵器拡散防止と、締約国による誠実な核軍縮交渉の義務、原子力の平和利用を定めている。1968年に締結された
このタイミングでベラルーシの属国化をさらに進めるのは、ウクライナでの戦争が長引きロシアが弱っているからですか。
高橋氏:そうは思いません。ロシアの長期的な計画の一環だと考えます。現在の戦況と直接の関係はない。英国がウクライナに劣化ウラン弾を供与することとの関係が取りざたされていますが、そのタイミングは単なる偶然だったと思います。
この戦争はなぜ起きたのか。それはウクライナを属国にするためです。さらに言えば、旧ソ連を復活させることで米欧に対抗するため。このためロシアはウクライナだけでなくベラルーシの属国化も並行して進めていました。ルカシェンコ大統領への支援しかり。2022年夏にもベラルーシにロシアの核を配備することが話題になりました。今回の戦術核配備表明も、この延長線の出来事です。
ロシアが核保有国であることをNATOに思い出させる
もう1つの政治的狙いは、ロシアが核保有国であることをNATO加盟国に改めて認識させることですね。ロシアとNATOとの間ではこの1年、戦略レベルの核抑止は働いてきました。どちらも核兵器を使用することはありませんでしたし、NATOはこの戦争に参戦していません。それなのになぜ、ロシアはこのタイミングで核の威嚇を強める必要があったのですか。
高橋氏:戦況が膠着する中でプーチン大統領は、NATOはロシアを“なめている”と感じていると推測します。ウクライナへの武器支援がどんどんエスカレートしているからです。最初は携帯型対戦車ミサイル「ジャベリン」などにとどまっていましたが、今では、「M1エイブラムス」や「レオパルト2」などの戦車、さらに、戦闘機「Mig-29」へと進んでいます。これに対して、たがをしめる必要があると判断したのだと思います
「escalate to de-escalate」と呼ばれる考え方ですね。戦局が拡大するのを抑える(de-escalation)ために、核兵器の使用というエスカレーションを行う。
高橋氏:今回はもちろん核の使用ではないですが、核の使用リスクを認識させて、相手の行動を抑えようという意味ではそれに近いですね。
NATOに対する核の威嚇という観点から考える場合、ロシアが22年10月、ウクライナの東・南部4州を一方的に併合し、この地域に展開するロシア軍への攻撃拡大が核による報復の対象になると示唆していることはNATOの対応に影響を与えるでしょうか。
ロシアは20年6月に「核抑止力の国家政策指針」を定め、「国家の存続を脅かす通常兵器を使った侵略」に対し、核兵器の使用を認めるとしました。ロシアから見れば、同4州で行動するロシア軍への攻撃はロシアへの攻撃となります。
もちろん、ベラルーシに戦術核を配備してもこれら4州には届かないのですが。
高橋氏:プーチン大統領が「核抑止力の国家政策指針」にある文言に沿って行動すると考えるのはアマチュアです。こうした宣言はあくまで、平時に行う抑止のためのコミュニケーションです。東・南部4州については、ウクライナが核の報復を恐れて、この地域での戦闘をためらうならばしめたものという程度の話でしょう。
実際の戦争においては、その基準を満たしていようが、満たしていなかろうが、プーチン大統領の判断で核兵器を使うことはあり得るでしょう。
核シェアリングを望むポーランド
ロシアの戦術核に対するNATOの防衛体制についてうかがいます。NATOは地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を配備しています。これは有効でしょうか。
高橋氏:難しいと考えます。
まず、NATOが配備するイージス・アショアはイランが発射する弾道ミサイルを対象とするものです。つまり約2500キロのかなたから飛んでくるミサイル。ロシアが発射する短距離弾道ミサイルへの対処を想定したものではありません。
機能から考えて、ロシアの9M723およびキンジャールに対処するのは困難でしょう。欧州配備のイージス・アショアは迎撃ミサイルにSM-3を使用します。これは、大気圏外の高高度(ミッドコース)を飛行する弾道ミサイルを迎撃することを想定しています。9M723は短距離射程で飛行高度が低いため、SM-3は適しません。
キンジャールは射程約2000キロのうち1500キロ程度は航空機に搭載された状態です。イージス・アショアで使用する早期警戒衛星やレーダーは航空機を探知するレーダーとは仕様が異なるため、キンジャールを搭載する航空機に対応するのは難しいと考えます。
とすると、ロシアの戦術核に対して、欧州は丸裸の状態にある。
高橋氏:そういうことになります。これまではINF廃棄条約によって守られていたからです。軍備管理は決して無駄ではありませんでした。同条約の失効に伴って、NATOはTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)*や地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)**の配備を進め始めたところです。
*:大気圏に再突入した敵の弾道ミサイルを、高度40キロ以上の比較的高い高度で迎撃するミサイル
**:大気圏に再突入した敵の弾道ミサイルを、高度20キロ超の比較的低い高度で迎撃するミサイル
NATOは今後、ロシアの戦術核の脅威にどのように対処していくのでしょう。
高橋氏:NATO加盟国をひとくくりにして考えることはできません。例えば、ウクライナやベラルーシ、そしてロシアと国境を接するポーランドは、米国との核シェアリングを今まで以上に強く求めるかもしれません。そうすることで、抑止力を高めたい。これまでもカリーニングラードに配備されたロシアの核の射程内にあり、その脅威にさらされてきました。隣国であるベラルーシに核が配備されれば、脅威の度がさらに増すことになりますから。
これに対して米国は、様子見をしようとするかもしれません。米国の視点から見れば、ロシアがベラルーシに戦術核を配備しても軍事的な状況は変わらないからです。状況に応じて、数あるオプションの中から適切なものを順次選んでいけばよいと考えていると思います。オプションとしては、何もしない、核兵器を搭載できる爆撃機「B-52」によるパトロールの頻度を高める、ポーランドからの核シェアリング要求を受け入れる、などいくつもあります。
ただしバイデン政権は核シェアリングには応じたくないでしょう。オバマ大統領(当時)と同じく「核なき世界」を目指す意向を表明しています。
他方、今の状況において米国がトランプ氏以外の共和党政権だったら、核シェアリングの要求を受け入れようとする可能性があります。現状は、それほどまで、ロシアによる核の脅威が高まっています。
ちなみに、核シェアリングは時の政権の意向だけでは実行できません。核に関わる秘密を共有するための条約を結び、米議会が批准する必要があります。それくらい重い行為なのです。
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