2023年4月11日火曜日

悪いニュース: NATOの戦車、飛行機、大砲がウクライナ戦争に勝利する可能性は低い

https://www.19fortyfive.com/2023/04/bad-news-nato-tanks-planes-and-artillery-unlikely-to-win-ukraine-war/

欧米の報道であまりに軽視されている要因がある。

2022年後半、多くの西側諸国とNATO諸国はウクライナに近代兵器を送ることを約束した。ロイド・オースティン米国防長官が言うように、その意図は、ロシアを追い出すのに必要な期間、ウクライナを支援することであった。ウクライナの春季攻勢がまもなく開始される兆しがある中、西側の軍事アナリストの多くは、西側の十分な量の武装がウクライナの状況を好転させることができると主張する。注意深く分析すると、そのような楽観論は見当違いである。

3月23日、ウクライナ地上軍司令官オレクサンドル・シルスキー将軍は、ウクライナ軍が「非常に近いうちに」新たな攻撃を開始し、「キエフ、ハリコフ、バラクリャ、クピャンスクの近くで過去に行ったように」ロシア軍を後退させると自信をもって宣言した。その4日後、ウクライナの国防大臣オレクシイ・レズニコフは、UAFがすでに英国、スペイン、フランス、米国、ドイツ、ポルトガルから戦車と装甲兵員輸送車を受け取ったと発表した。「最高の兵士のための最高の車両」とレズニコフはツイートし、攻撃に向けて前進する時が来たと付け加えた。

NATOはウクライナ軍を強化するために最新の装備と訓練を提供する。

多くの人が、ウクライナに約束された、あるいはすでに納入された数を指摘する: MiG29ジェット機、米国が提供するパトリオット防空システム、M1A1エイブラムス戦車、ストライカー装甲車などだ。これにイギリスのチャレンジャー戦車、ドイツのレオパード戦車、フランスのAMX-10戦車、トルコのキルピ装甲兵員輸送車、アメリカのパラディン自走式155mm榴弾砲、そして数千機のドローンが加わる。これは大変な火力だ。しかし、欧米のメディアであまり理解されていないのは、さまざまな近代的なプラットフォームを戦闘力に変えていく手間のかかるプロセスだ。

多くのアナリストは、さまざまな飛行機、戦車、装甲車の能力がロシア軍よりも優れているため、それらを保有するだけでウクライナ側に戦術的な優位性が想定されると評価する。現実ははるかに複雑である。このページの過去の分析で詳述したように、多数の異なる国のプラットフォームを使用するために、ウクライナはスペアパーツ、訓練を受けた整備士、各システムに合わせた弾薬を供給できるロジスティクスを持たなければならない。

各プラットフォームには独自のオペレーションシステムがあり、オペレーターは自国のソ連時代の装備を理解するだけでなく、それを習得しなければならない。これらすべてを統合し、運用し、弾薬、燃料、スペアパーツを供給し続けることは、途方もなく困難な作業である。成熟した支援システムがない中で、これほど多くの異なるプラットフォームを組み合わせるのも大変だが、ウクライナ軍が直面するもっと大きな困難は、それらを連合軍の攻撃で効果的に使用することだ。

報道によれば、最大3万人のウクライナ軍が、多くのNATO施設で数週間から数ヶ月の訓練を受けた。これによってUAFの能力が向上することは間違いないが、この取り組みはあまりにもバラバラで、大規模で適切に調整された高度な複合武器作戦を実施し、準備されたロシアの防御陣地の複数のベルトに侵入するための準備をウクライナ軍が十分に行うことはできない。

装備や兵站の問題、訓練や運用の難しさを克服できる可能性は、どの部隊にとっても著しく低い。UAFの難題をさらに深刻にしたのは、航空援護がほとんどなく、少なくとも夏場は砲弾の数が限られていることである。

レオパルド2とM1A1エイブラムスの戦闘性能 

欧米の報道であまりに軽視されている要因がある。ウクライナが期待している戦車は、それ自体、戦場での能力を大きく向上させるような革新的な技術ではない。実際、レオパルド2やM1A1エイブラムスは、戦闘において脆弱である。

2016年12月、トルコ軍はシリア北部でクルド人分離主義者とISIS反乱軍に対する作戦を展開した。2016年の初め、トルコはアメリカから手に入れた古いM60パットン戦車の多くを失い、より近代的なレオパード2A4を採用することにした。12月のアル・バブの戦いでは、レオパルドはパットン戦車に劣り、少なくとも10両のドイツ戦車が反乱軍によってノックアウトされた。2016年、Defense Oneは、サウジアラビアがイエメンのフーシ派反政府勢力との戦争で運用するM1A1戦車が最大20両ノックアウトされたと報じた。

心に留めておいてほしい。ウクライナの戦場での希望の基盤であるレオパルド2やM1A1は、NATOトルコ軍やアメリカで訓練されたサウジ軍が、自ら戦車を持たない反乱軍との戦闘で使用した際、戦場でノックアウトされてしまった。ウクライナにとって最も可能性の高い結果は、レオパルドであれ、チャレンジャーであれ、エイブラムス戦車であれ、自軍の現在のソ連時代の戦車で達成した結果とほとんど変わらないと思われる。重要なのは、常に装備の使用方法である。戦車そのものは、それほど大きな違いはない。

ウクライナの春の攻防の後に来るもの

ウクライナの防衛者たちの粘り強さと勇気を賞賛せずにはいられないし、侵攻してくるロシア軍を追い出したいという彼らの気持ちも理解できるが、ゼレンスキー大統領と彼の将軍たちが直面しているリスクは、攻勢が成功しないことよりもはるかに大きい。何が問題なのかを理解するため、ウクライナの成功の可能性だけでなく、前進の可能性にも目を向ける必要がある。ウクライナが失敗すれば、その悪影響は明らかである。戦術的に成功した場合でも、最終的にウクライナが戦争に巻き込まれる可能性があるということを理解している人は少ない。

攻勢に失敗すれば、ウクライナ軍は弱体化し、まとまった戦力として1年を乗り切れないかもしれない。攻勢に成功すれば、ロシアの反撃にさらされるほど弱体化する可能性がある。というのも、ウクライナは数カ月かけて攻撃型打撃部隊を増強し、徴兵制やあまり訓練されていない部隊をバクムートなどの前線のホットスポットに滞留させた。(これは攻撃部隊に準備の時間を与える上で極めて重要であった)。

ウクライナが新たな攻撃部隊を構成するために必要な人材も不足している。ウクライナの立場は、敵が保有する兵力と戦力の多さによってさらに悪化する。

2月上旬、ウクライナ情報部は、ロシアが大規模な侵攻のためにウクライナ国内に約30万人の兵力を集結させ、その兵力は戦車1800両、装甲車3950台、大砲やロケットランチャー3000基以上、ジェット機400機、ヘリコプター300機という驚異的なものであると報じた。すぐにでもロシアが大攻勢をかけてくると期待されていた。ウクライナがバフムートで頑強に抵抗したためか、ロシアは大規模な冬季攻勢をかけることができなかった。ロシア軍がバフムート、ヴルダル、アヴディフカでの戦闘損失を補うために援軍を投入しなければならなかったのは間違いない。

現在交戦していないロシア軍も相当数残っている。私たちが知る限り、ウクライナは意味のある戦略的予備軍を持っていない。ウクライナの攻勢が成功し、ロシアを少しでも後退させれば、彼らは戦力を使い果たす。ロシアの戦線を曲げたとしてもそれは壊れず、戦線に沿って小さな侵攻を与えるだけなら、UAFの戦力も疲弊する。いずれにせよ、集大成の瞬間、ロシアは大規模で十分な補給を受けた部隊を持ち、自国の大規模な反撃を開始する。ウクライナがロシアの反撃を阻止するのは難しい。

本評価の最終回では、各陣営の戦術的な状況をより詳細に検討する。ウクライナが攻勢に転じたと想定される後に何が起こり得るかを深く考察し、今後の各陣営の状況を考察する。ウクライナの勝利を望む感情や欧米の好みはさておき、戦闘や戦時中のファンダメンタルズを計算ずくで検証すると、キエフにとって良い兆候はない。

著者略歴と専門分野 

1945年の寄稿者であるダニエル・L・デイビスは、Defense Prioritiesのシニアフェローであり、元米国陸軍中佐で4度戦闘地域に派遣された。著書に "The Eleventh Hour in 2020 America "がある。彼をフォローする @DanielLDavis.

【関連記事?】

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/74652

ウクライナ軍の大反攻、口火切るのはクリミア大橋の破壊か

作戦のカギ握る戦闘機、特に長射程ミサイル搭載F-16が不可欠

2023.4.5(水)

西村 金一

にしむら・きんいち 1952年生まれ。法政大学卒業、第1空挺団、幹部学校指揮幕僚課程(CGS)修了、防衛省・統合幕僚監部・情報本部等の情報分析官、防衛研究所研究員、第12師団第2部長、幹部学校戦略教官室副室長等として勤務した。定年後、三菱総合研究所専門研究員、2012年から軍事・情報戦略研究所長(軍事アナリスト)として独立。

執筆活動(週刊エコノミスト、月間HANADA、月刊正論、日経新聞創論)、テレビ出演(新報道2001、橋下×羽鳥番組、ほんまでっかTV、TBSひるおび、バイキング、テレビタックル、日本の過去問、日テレスッキリ、特ダネ、目覚ましテレビ、BS深層ニュース、BS朝日世界はいま、言論テレビ)などで活動中。

著書に、『こんな自衛隊では日本を守れない』(ビジネス社2022年8月)、『北朝鮮軍事力のすべて』(ビジネス社2022年6月)、『自衛隊はISのテロとどう戦うのか』(祥伝社2016年)、『自衛隊は尖閣紛争をどう戦うか』(祥伝社2014年)、『詳解 北朝鮮の実態』(原書房2012年)などがある。

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2023年2月下旬、ウクライナに対してロシア軍の総攻撃が再びあると予想された。その総攻撃は、ロシア軍総参謀長が指揮を任されたこともあり、かなり大規模なものになるとの予想が多かった。だが、3月の末までの地上戦を見た限りでは、総攻撃にはほど遠く、バフムトなど東部の拠点を占拠しようとした、犠牲を顧みない歩兵主体の攻撃であった。ロシア地上軍は兵員の損害が多く攻撃衝力がなくなり、限界を迎えつつある。そして、残存兵力は逐次防御に転移している模様だ。つまり、ロシア軍は攻撃できないレベルまで落ちてしまったのだ。これからの防御も、ウクライナ軍の強大な反撃を受ければ、打ち破られ、その組織は瓦解すると予想されるようになった。

今後の戦闘の注目点は、ウクライナ軍がロシア軍の最大の弱点を増幅すること。つまり、重要拠点を破壊し混乱させること。その後、反撃をいつどのように行うかだ。

今回は、ウクライナ軍の地上作戦に大きく貢献する航空作戦を考察する。地上作戦の予測については、JBpress『ロシア軍バフムト攻勢は大敗北の予兆、クリミア奪還許す可能性大』(2023.3.8)を参照してほしい。

1.ロシア軍重要拠点破壊に欧米戦闘機不可欠

これまでは、ロシア軍が占拠した地域の重要目標に対して、無人機や長射程精密誘導ロケット砲などで時間をかけて一つひとつ破壊してきた。しかし、これからは戦闘機・攻撃機(戦闘機等)などの破壊力の大きさがないと、十分な成果が得られないだろう。また、重要な兵器などは、長射程ロケット等の射程外に避難しているため、なおさらである。前線から遠く離れたロシア軍の重要施設、防空ミサイル、兵站施設、指揮所を破壊するためには、やはり高性能の戦闘機等が必要だ。要施設や軍事基地、例えばクリミア大橋まではザポリージャ州から約280キロ、へルソン州からは約350キロ離れている。へルソン州からセバストポリ港まで約250キロである。

防空ミサイルもこれらの基地等を守るように配備されている。これらを攻撃する場合、射程を延伸しているGLSDBという長射程の誘導ロケット弾(最大射程約150キロ)でも届かない。ロシア軍の兵站拠点や指揮所でも両軍の接触線から100~150キロは離れている。やっと届くかどうかだ。長射程ロケットが供与されるには、まだ半年以上の期間がかかるかもしれない。このため、ロシア軍の重要施設を破壊するには戦闘機が必要になる。それも長距離の対地攻撃能力を有する必要がある。

2.クリミア奪還のためにまず必要なこと

ウクライナ軍がクリミア半島を奪還するために絶対に達成しなければならないことは、クリミア大橋とクリミアの海空軍基地を破壊することだ。このような重要施設の破壊は、どのようにすればできるのか。まず、高性能の戦闘機等は絶対に必要だ。戦闘機が目標に接近し、対地攻撃ミサイルを発射できるように、例えばウクライナの「MiG-29」戦闘機を米軍供与のミサイル(射程150キロ)を発射できるように改良しておくことだ。また、長射程ミサイルを発射できる「F-16」戦闘機を供与してもらうことだ。ウクライナ軍戦闘機等が装備するミサイルの射程に入るためには、ロシア軍の長射程防空兵器を破壊しなければならない。破壊するためには、対レーダーミサイル(HARM)とこれを発射できる戦闘機が必要である。ウクライナ軍は、MiG-29を改良して発射できるようにはなっているが、その数が少ない。おそらく1~2機ほどだろう。もっと大量に必要だ。MiGを改良するよりは、F-16であれば飛行性能もレーダー探知能力も高いし、改良する必要もない。破壊されたロシア軍の防空兵器の数は、2023年4月1日までで約300基(ウクライナ軍総参謀部発表)で、ロシア軍が投入したとみられる数の約23%に過ぎない。ウクライナ軍地上軍が反撃するためには、ウクライナ領域上空の航空優勢を確保して、戦闘機や攻撃ヘリの支援を得られることが必要だ。そのために、多くのロシア軍防空ミサイルを徹底的に破壊する必要がある。

3.クリミア大橋破壊が分水嶺に

クリミア半島を防衛する場合、クリミア大橋が存在するか、あるいは遮断されるかでは大きな差がある。それは、防御の要領と戦闘の流れが全く変わってしまうからである。存在する場合は、クリミア半島の防御ではウクライナ軍に対し、下図に示した①、②、③までの各防御ラインで、逐次戦闘を行うことができる。①~③の流れで後退し、最終的にはロシアに退却することができる。また、重さ50トンの戦車も輸送でき、国内から継続的に兵站支援が受けられる。

一方で、橋が破壊され遮断されてしまえば、①~③の順で防御戦闘を行おうとしても、ロシア領内への退却経路がなくなり、また兵站支援が得られなくなる。ウクライナ軍がクリミア半島の付け根まで(②の防御ライン)侵攻していなければ、クリミア半島~メリトポリ~マリウポリの方向に退却することができるし、後方連絡線を使うことができる。だが、付け根まで侵攻(②の防御ラインが維持できない場合)されてしまえば、完全に孤立状態になる。さらに、兵員や戦車などの兵器の増援も得られなくなる。

退却や兵站支援には、船舶を使わざるを得ない。船舶輸送では、量と数量、特に戦車などの重量物の輸送に限界がある。このような理由で、防御は極めて困難になるのだ。退却路がなければ、負け戦の最後には、戦死するか捕虜になるしかない。

クリミア大橋が遮断されれば、クリミア半島守備部隊はどのような心理状態になるのか。不安で浮足立つことになる。ということは、クリミア半島の防御は早急に崩壊することになる。ロシア地上軍の精強な兵士たちは、侵攻が始まってからこれまでの戦闘で大量に死傷してしまっている。戦いに慣れていない予備役兵たちの心理は不安定で弱い。彼らがクリミア半島を死守することはできないだろう。ウクライナ軍がクリミア大橋を爆破することは、クリミア半島奪還の成否を決める重要な作戦である。

4.クリミア大橋への航空攻撃シナリオ

①F-16か改良型MiG-29の2機で直接攻撃することになる。また、できれば連携した2機でHARM攻撃を実施する。

HARM攻撃する場合、無人機を飛行させてロシア軍の防空レーダーを作動させ、その後にHARMを発射する。あるいは、無人機攻撃を行い防空ミサイル部隊の注目を引き付けるという方法もある。

②黒海側から超低空で飛行し、クリミア大橋を攻撃できるミサイルの射程まで接近して、攻撃ミサイルを発射する。(ロシア軍防空ミサイルの脅威によって接近する距離が異なる。脅威がほとんどなくなれば、空対地ミサイルのJDAMの射程10~20キロで、脅威が高ければ今のところ供与されている情報はないがJASSM-ERの射程500キロ以内の射程)

③接近時に、ロシア軍の防空ミサイルまたは戦闘機に発見され、撃墜される可能性がある。

④橋を確認できる高度に上昇し、ミサイルを発射する。

⑤ミサイル発射あるいは爆破後は、ロシア空軍戦闘機に追いかけられて空対空ミサイルの攻撃を受ける可能性がある。

⑥空対空戦闘で、ウクライナ軍機がロシア軍機から逃げ切るためには、高性能のF-16が必要になるだろう。

この作戦では、飛行経路上の防空兵器を事前にすべて破壊しておくことが必要だ。しかし、経路上の兵器だけを破壊すれば、クリミア大橋への接近経路や時期などの企図が暴露してしまうので、クリミア半島の防空兵器をすべて破壊する必要がある。クリミア半島の場合、ロシア領空からの相互支援ができないために、対レーダーミサイルを使って破壊することは比較的容易だ。

5.F-16戦闘機供与を躊躇するな

クリミア大橋を航空攻撃で爆破することは、ウクライナ軍による反撃の口火を切ること、その後の戦況、最終的な奪還に重大な影響を与えるものである。クリミア大橋の西端を空挺・ヘリボーン攻撃やパルチザンによる攻撃を実施して、その後爆破するという構想もあるが、成功の可能性は低い。なぜなら、ロシア軍はこの橋の戦略的価値から見て、空挺・ヘリボーン攻撃、パルチザンによる攻撃、航空攻撃への対処を準備しているのは当然のことだからだ。したがって、最も実行の可能性が高いのが戦闘機によるミサイル攻撃だ。ミサイルの射程内になる約150キロまで近づければ、成功の可能性が高い。この作戦を達成できるのは、高性能なF-16戦闘機と練度の高いパイロットだけだ。この作戦は、ウクライナでの戦争の最大の山場になる。米欧は、この戦闘機を早急に供与すること、その数量は多くなくてもよい。実際に、F-16運用のためのパイロットの訓練や整備などの兵站支援の準備も進んでいるという情報もある。

ウクライナ軍が空地協同作戦を実施し、ロシア地上軍を一気に瓦解させ、そしてクリミア半島を奪還する時期に来ている。米欧は、反撃の開始前、まさに今、戦闘機を供与すべき時である。ただし、高性能戦闘機をウクライナに供与すると、ロシア領域内を航空攻撃することが考えられ、戦争が拡大する可能性があるという懸念がある。そうであるならば、その数量を少なくし、また定めた期日までに変換するという策もあるのではないだろうか。

【アナザー関連記事?】

https://toyokeizai.net/articles/-/665550

武器供与で習近平を怒らせたプーチンの誤算

「2023年内勝利達成」ウクライナの悲願は可能か

吉田 成之(よしだ しげゆき)

Shigeyuki Yoshida

新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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長期戦に移行か、年内終結か。ウクライナ戦争は2023年4月、その行方を左右する決定的な局面に入った。ロシアとウクライナはそれぞれ、このヤマ場をどう乗り切ろうとしているのか。双方の本音を探ってみた。

プーチン大統領が1日に2回、ショイグ国防相など軍トップに必ず報告させている問題がある。ウクライナの戦況、とくに東部ドンバス地方(ドネツク、ルガンスク両州)での情勢だ。

ロシア軍が2023年1月末から開始した冬季大規模攻勢における最大の激戦地、ドネツク州の要衝バフムトをめぐっては、4月上旬の本稿執筆時点でまだ血みどろの市街戦が続いており、ロシア軍が制圧する可能性も残っている。これが実現すれば、2022年6月以降、戦果がなかったプーチン氏にとっては、待ちに待った戦果となる。

攻撃回数が減るロシア軍

しかし全長1000キロ以上の戦線全体を俯瞰すれば、実現したとしてもバフムト制圧はあくまで局地的勝利。これでロシア軍全体に弾みがつくとは思えない。事実、ドンバスの他の地域では目立った進展もない。プーチン氏が軍に厳命していたと言われる3月末までのドンバス制圧の期限も過ぎた。

おまけにロシア軍の攻撃回数は全体として減ってきている。バフムトの攻防戦の結論を待つまでもなく、大規模攻勢は結局失敗だったとの見方がウクライナや米欧から出ている。それはなぜか。2022年夏以降続いているバフムトの攻防戦がここまで長期化したこと自体、ウクライナ側が仕掛けた、一種の罠だったからだ。

2023年4月以降に南部などで大規模な反転攻勢を計画しているウクライナ軍は、バフムトになるべく多くのロシア軍兵力を引きつけ、多数の人的損失を被らせることにより、反転攻勢への防御に回す兵力を削ぐことを狙っていたからだ。

バフムトではロシア軍に数万人規模の戦傷者が出たと見積もられており、その意味で今後バフムトを失うことになっても、戦略的にはウクライナの思惑通りの展開になったと言える。

バフムトをめぐっては、ウクライナ側にも数千人の死傷者が出ており、アメリカなどからバフムトからの撤収を求める意見もあったが、この時点まで徹底抗戦を続けることは、ゼレンスキー氏が指導者として、自軍の人的損失より、反攻作戦の成功に向けた戦略実現を優先するという冷徹な判断を貫いた形だ。

2022年秋以降、ロシア軍が苦戦した要因としては、お粗末な作戦や士気の低さ、兵器・兵員不足などがすでに表面化していた。しかし今回のロシア側の攻勢の失敗をめぐっては、最近ウクライナの軍事関係者の間で新たに話題になっていることがある。それは地上部隊の攻撃に航空部隊が空からの応援として投入されなかったことだ。キーウの軍事筋の一人は「地上軍と空軍の間で共同作戦が行われなかったことは驚きだ」と指摘する。

元々ロシア軍では、陸空海など各軍の指揮統制を自動的につなぐシステムがないことが問題視され、2010年ごろから全軍をつなぐネットワーク型の指揮統制システム構築の試みが始まっていた。今回陸空共同作戦が実施されなかった要因が、この自動型指揮統制システムの未整備だったかどうかは断定できないが、こうしたロシア軍の前近代的な欠陥が露呈した可能性が高いと筆者はみる。

そうだとしたら、アメリカが提供する衛星情報などを取り込んで立体的な作戦を展開するウクライナ軍の近代的作戦とあまりに対照的だ。

ベラルーシへの戦術核配備はどうなる?

いずれにしても、ロシア軍の攻勢は今後も継続するとみられる。ウクライナ軍はとくに、ミサイル攻撃を警戒している。しかしウクライナの軍事アナリスト、オレクサンドル・ムシエンコ氏は「(2023年)3月31日までのドンバス制圧を実現できなかったロシア軍の攻撃は今後減っていき、ウクライナの反転攻勢への備えに重点が切り替わるだろう」と予測する。

プーチン氏は2023年3月25日、ロシアと「連合国家」を形成するベラルーシへの戦術核配備を決定、同年7月1日に弾頭の保管庫が完成すると発表した。この発表には2つの狙いがあるとみられる。

2023年4月4日に決まったフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟を前に、NATOがロシア国境へ大幅に接近することへの強い対抗姿勢を強調することがまず1つ。同時に、ウクライナの反攻作戦開始を前に、ゼレンスキー政権を強く牽制、軍事支援を続ける米欧に対しても、これ以上の軍事支援を控えるよう強いプレッシャーを掛ける「核の威嚇」を狙っているのは間違いないところだ。

しかし、この新たな「核の威嚇」は、クレムリンが期待していた「脅し効果」を得られなかった。ワシントンも、ゼレンスキー政権も比較的冷静な対応をしているからだ。これを象徴するのが、2023年3月28日にアメリカ国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官による記者会見での発言だ。「プーチン氏が公言したことを実行に移す動きは見られない」。

それはなぜか。先述したウクライナの軍事筋は「プーチン氏が配備発表の効果を読み誤ったため」と指摘する。まず、アメリカもウクライナも実際に戦術核が実際に配備されるかどうかわからないとみている。これまで侵攻への直接参戦をロシアに強く求められながらも、のらりくらりと参戦を回避してきたベラルーシのルカシェンコ大統領が今回も結局、言を左右にして、実際の配備を先送りするのではないかとの読みがある。

さらに、実際にベラルーシに配備しても同軍事筋は「反転攻勢をとめる抑止力にはならない」と指摘する。「根本的な勘違いをプーチン氏はしている」というのだ。

なぜなら、ベラルーシでロシア軍が戦術核を発射しようという動きを見せれば、「アメリカがその段階で事前に通常兵器で攻撃するのは確実だ」と軍事筋は言う。戦術核は普段は弾頭部分を倉庫に保管し、使用する直前にミサイルに装着するために倉庫からミサイルまで運搬する。

ロシア国内の場合、戦術核の弾頭が保管場所から発射場所まで移送された場合、アメリカは動きを確実に捕捉できる。今後ベラルーシに発射基地と保管場所を新設しても、アメリカはロシア国内と同様に発射準備の動きを事前に探知できるという。

「これが、クリミアに戦術核を配備するのであれば一定の抑止効果はあるだろうが、ベラルーシの場合、アメリカを含むNATOは攻撃をためらわないだろう」と言う。この場合、ウクライナも同様にベラルーシを攻撃するのは間違いないと同筋は強調する。

習近平を怒らせたプーチン

その場合、ロシアはどう行動するのか。同筋は「ロシアがベラルーシを守るために参戦するとは思えない」と指摘。結局、今回のベラルーシへの戦術核配備発表は、軍事的に大きな脅威と映っていないという。

さらにプーチン氏には、より大きな外交上の誤算があった。2023年3月末の中ロ首脳会談で、訪ロした習近平・国家主席がプーチン氏からの武器供与要請を断ったからだ。外交筋によると、プーチン氏は会談で再三、武器供与を習主席に求め、主席に不快な思いをさせたという。

もともと、事務方の事前協議で中国側は、供与を求めたロシア側に対し、明確に拒否の方針を伝えていた。それにもかかわらず、プーチン氏が面と向かって供与を求めたことで習主席が立腹する原因になったという。

さらに習主席のメンツをつぶすことも起きた。首脳会談の結果として署名した共同声明で、国外に核兵器を配備しないことなどを明記したにもかかわらず、その数日後にベラルーシへの戦術核配備をプーチン氏が発表したからだ。

今回の共同声明で中ロは戦略的協力と包括的パートナー関係深化をうたったが、同外交筋は「中ロが準同盟関係を維持しているのはアメリカをにらんだ太平洋地域の話。ウクライナ問題をめぐっては、この1年間で隙間風が吹いている」と指摘する。

一方で、ウクライナ軍の大規模反攻作戦は当初、2023年3月にも始まるとみられていたが、ずれ込んでいる。同年1月末以降、米欧からの軍事支援がドイツ製主力戦車レオパルトなど質量ともに大幅に拡充し始めたことを受け、ウクライナ側がこうした武器が到着するのを待ってから開始する戦略に切り替えたことが遅れの第1の技術的要因だ。

もう1つの大きな要因は、今回の反攻作戦が、年内の全領土奪還と対ロ軍事的勝利に向けた、1回限りの最後のチャンスとみるウクライナ側が、より慎重に準備を進めていることが挙げられる。

軍事筋は「これに失敗したら、アメリカから(ロシアとの停戦と妥協に向け)タオルを投げ入れられる可能性もある」との危機感を示すほどだ。現時点で反攻開始の時期は公表されていない。ウクライナのメディアに対しても、侵攻計画の事前報道に関して事実上の「ギャグ・オーダー(箝口令)」が掛けられている。ウクライナ国家安全保障・国防会議のダニロフ書記は、大規模攻勢について政府内で「開始時期など情報を持っている人物は3~5人だ」と明かしたほどだ。

ウクライナ軍の大規模反攻は4~5月か

それでも、反攻は2023年4月か5月には始まるとみられている。しかし、反攻作戦の開始場所は明らかにされていない。レズニコフ国防相は3カ所と語ったのみだ。当初、反攻作戦は1カ所で始まるといわれ、南部ザポリージャ州の要衝メリトポリが攻撃対象となるといわれてきた。

しかし、その後、ターゲットは複数に増えたが、米欧から供与された戦車など兵器の配備先も発表されていない。ロシア軍に手の内を見せず、防御網を必要以上に薄く広く、延ばす狙いだ。

とは言え、メリトポリが最初の標的にひとつになるのは確実だ。クリミア半島へ南下する鉄道・道路の結節点で、反攻の最終的な目標であるクリミア奪還を早期に実現するうえで欠かせない都市だからだ。

ロシア本土とクリミア半島を結ぶ輸送回廊の重要拠点であり、ウクライナがここを確保すれば、ロシア軍は補給の大動脈を失うことになる。ウクライナ軍はすでに高機動ロケット砲、ハイマースなどでメリトポリに砲撃を加え、制圧への下準備を始めている。

クリミア奪還作戦の可否を巡って、ウクライナに対してアクセルとブレーキを同時に踏んでいると評されていたアメリカも、ここまできたらウクライナに任せるしかないと踏ん切りがついたようだ。

ブレーキ役の代表格だったアメリカ軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長も3月末の米議会公聴会でこう述べた。「個人的にはクリミアを軍事的に奪還するのは極めて難しい目標だと思っているが、試みるかどうかはウクライナ政府が決めることだ」。

実は、公表されていないが、2023年3月初めにアメリカのブリンケン国務長官がウクライナ側に対してブレーキを掛けていた。「クリミアを攻撃した場合、ロシアが核兵器を使う恐れがある」との懸念を密かに伝えてきた。

反攻作戦はどこから始まるか

この直前に長官は、G20(20カ国・地域)外相会合が開かれたインドのニューデリーで、ロシアのラブロフ外相と短時間接触していた。このため、同軍事筋は「この際にブリンケン氏はロシア側から核を使うぞと脅されたのだろう」とみる。しかしウクライナ側はこのブレーキを無視した。

クリミア奪還作戦をめぐっては現在でも興味深い議論がネット上で行われている。ロシア軍基地が多数あり黒海艦隊司令部もあるクリミアか東部ドンバスのどちらが、反転攻勢の標的としてより容易かとの問いに対して、戦況をウオッチしている複数のロシア系イスラエルの軍事専門家たちが口を揃えて「クリミアに決まっている。イスラエル軍だったら、当然そう選択する」と明快に回答したのだ。

ロシア軍の侵攻状況(2023年4月3日、図・共同)

その理由はこうだ。メリトポリなどを制圧してロシア軍の陸上補給回廊を絶つ。そのうえで、ロシア本土とクリミア半島を結ぶ、もう1つの大動脈であるクリミア大橋を2022年10月に続いて再度攻撃して、通行不能にする。そうなれば、クリミア半島は事実上「島」と化し、ロシア軍は完全に補給路を断たれる。これに長期間耐えられる軍隊はない。事前に撤退しなければロシア軍は降伏するしかなくなる、というものだ。

一方でウクライナ軍のクリミア奪還に向けた軍事的態勢が万全か、というとそうではない。同軍事筋は、ロシア軍の防衛陣地を攻撃するための航空機など兵器が足りないのは事実」と打ち明ける。

いずれにしても、全領土奪還による2023年内勝利達成という歴史的悲願をウクライナが勝ち取ることができるかどうか。その成否の見通しは、今夏には見えてくるだろう。 

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https://sputniknews.jp/20230401/15525898.html

米国がロシア軍についてのフェイクを拡散する理由とは=米専門家

2023年4月1日, 08:00 (更新: 2023年4月1日, 15:31)

米政府はウクライナにおけるロシア軍の状況についてフェイクニュースを拡散している。元海兵隊員のアナリスト、スコット・リッター氏がYouTubeチャンネル、Red Pilled TVの取材に応じた中でコメントした。

リッター氏によると、米国はウクライナが敗北した際の結果に対処できないため、あえて「目をそらす作戦」を遂行しているという。米国とウクライナはもはや「神頼み」の状況で、ロシア軍の状況についてプロパガンダを流すしかない。その例として弾薬不足、恐怖、軍内部の不満をあえて強調することで、「モスクワ版のマイダン」(カラー革命)を目指しているという。

リッター氏によると、激戦地のアルチョモフスク(ウクライナ語ではバフムト)でウクライナ側は壊滅的被害を受けており、最大で8万の兵が死傷、または捕虜になるとのこと。

先にウクライナのゼレンスキー大統領はAP通信の取材に応じた中で、仮にウクライナ軍がアルチョモフスクで敗北すれば、国民および国際社会はロシア側の要求に妥協するよう、政府への圧力を強めるとの懸念を示していた。また、アルチョモフスクの敗北はウクライナ軍の士気を引き下げるとも警告していた。

 

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