2017年1月14日土曜日

PDMは誰をも惹きつける魅力がないんじゃないか。

2007年、開発業界をいったん引退してから製造業に就いた。開発業界が見渡せてしまったからだ。
ロンドンたらどこたらの大学で修士号を取得した美しく有能なお嬢さんがたがたくさんいて華やか。我が輩のような学士号しかないおっさんがぶいぶいゆわせる雰囲気じゃなかったのだ。それでたまたま製造業に職を得た。

タイランドの工場に出張して販売営業担当者たちを相手に、タイ工場のどこになにが足りないか、それを補うためになにを投入しなければならないかを考えるため、PDMを使った。

まずPDMとは何かをわかってもらうため、実際にテーマ(オバーオールゴール)を出し、みんなの意見を取り入れながらPDMに落とし込んでいった。

そしたら、販売営業担当者たちの考え方がPDMのめざす方向とぜんぜん違っているのが見えてきた。ここでふたつの選択肢が出てくる。ひとつはPDMの示す方向に議論を誘導すること、もうひとつはそれぞれがばらばらに出す意見をPDMに反映させること。

そもそもPDMの背景にはPCMという手法があって、その時点でステーキホルダーたちの意見を十分に汲み取っていなければならなかったのだ。そのうえでのPDMなのだから。

しかしPCMも、やはりモデレーターにより取捨選択がなされるわけなので、方向性に政治が反映されることは必然だ。

つまりPCMも政治的意思の反映なのだ。

それを考えるといま日本政府が東アフリカでやっている農業改革に反対意見が多いのもうなずける。我が輩の限られた知識で言うのだから間違っているかもしれないが、日本政府の方向性は農業の生産性をあげようというもので、必然的に農地集積・大規模化による効率向上ということになる。反対派はそれをすれば貧農がより貧困化するというのである。反対派が正しい。プランテーション農業をやろうということなのだから。プランテーションの利益は白人農園主が吸い上げて本国に送金したのだろうけれど、日本政府はそれを地元に還元しまっせ、ということなのだろう。しかしそのフィードバックには長い時間がかかる。そのあいだ貧農たちは土地を取り上げられ、ただばたらきしなければならない。その期間の生活費補填は「農業ではなく社会福祉の領域」なのでプログラムの関知するところではない云々、なのだろうと邪推する。


これは日本政府の方針ですらなく、アメリカの方針なのだ。いや、農業生産性向上プログラムそのものが、アフリカにおけるアメリカ(および同盟国日本)のプレゼンス拡大のひとつの小さなエレメントなのであって、アメリカがなんでそんなふうに考えるようになったかというと、中国がアフリカに出てきたからだ。中国がアフリカに出て行ってもアメリカにはなんの不都合もなさそうなのだが、西欧が文句を言っているのだ。つまりアフリカは暗黒大陸の昔から西欧の権益だったのだ。(西欧がアフリカから搾取して暗黒大陸にしたのだが。)そこに中国が入ってきたので西欧が怒った。アメリカは西欧のリーダーを自認しているので、より多くのアフリカ人民をアメリカ(および同盟国日本)の味方につけるため、いろいろな開発政策を考え出すために調査した。そのひとつが農業の生産性向上で、それを日本に「やれ」と言った。もしくは日本が「なんかやれ。」と言われたので独自調査をしたら農業生産性向上というテーマがでてきた。それを進めようとしたら、貧農が貧困化した。NGOが文句を言った。それは正しい、けれどもプログラム自体が官僚機構の網の目のひとつ、農業政策枠に落とし込まれてしまい、社会福祉は別枠だった。農業政策も貧困対策の大枠にはいっているような気はするのだが、おそらく社会福祉とは別の小枠になっているのだろう。

つまりPCMでステーキホルダー(住民とか酋長とか県知事とか)の意見を吸い上げる時点で、すでに政治的に枠組みは決められていて、これを超えることはできない。政策の不可逆性である。


PDMを使うということ自体が政治的意思なのだ。

なぜそうなるのか?それはPDMの出自が戦争ツールだからだ。

なぜか?開発援助は戦争も含めて外交のツールだからだ。


そこに問題がある。やはり開発には経営ツールを使うべきなんじゃないか?という問題意識から、BSC(バランスト・スコアカード)を使ってはどうか?という意見がでてきた。しかしそれはメインストリームじゃない。

なぜか?開発業界は立ち上がりから、「やることがなくなった近代経済学者が」手をつけた業界、つまり近代経済学のテリトリーだったからだ。経済学者は、とくにマクロ経済学者は経営学を軽蔑している。だから開発学に経営学がはいってくるのを嫌うのだ。開発業界もJICAも、アメリカの政権がリベラルなのかコンサバなのかによって左右される運命なのだ。

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