戦略なき30年間がもたらしたウクライナ戦争 ダグラス・マクレガー
https://libertarianinstitute.org/articles/30-years-with-no-strategy-brought-us-the-war-in-ukraine/
ダグラス・マクレガー|2022年5月23日
ワシントンDCは大戦略に秀でていない。大戦略とは、米国の外交、経済、情報力を、国家目標と利益を確保するために軍隊と組み合わせて費用対効果の高い形で用いるアートとサイエンスである。過去30年間になされた軍事力行使の戦略的決定のほとんどは、次の2つの戦略的結果のいずれかをもたらした。すなわち、大失敗(ソマリア、ハイチ、アフガニスタン、イラク)か、米国の国境から遠く離れた場所に米軍が常駐しなければ維持できない新しい地域の現状(バルカン半島)であった。
過去30年間の失敗は、米国の軍事力について現実的で達成可能な目標を明確に定義できなかったことに起因している。定義のためには、米国の資源と有権者の忍耐力が無限でないことを認識し、相手の利益と能力を十分に理解する必要がある。党派に関係なく、ワシントンは国家戦略に対して、英国人がセックスに取り組むのと同じく、「悲惨な生物学的下品さからロマンチックに距離を置く」ようなアプローチをとっているように思われる。
かつてワシントンが世界の出来事をコントロールするのに有利だった条件が弱まりつつあることを認識できない。そのことが、ウクライナ戦争が我々ではなくロシアの都合で終わる理由であろう。
ワシントンは、ウクライナでの戦争を、止めることができた、そして止めるべきであった時点をはるかに超えて長引かせた。バイデン政権は、ロシア近海における重要な戦略的利益を認め、ミンスク合意を履行するのではなく、紛争を不可避とし、ウクライナがモスクワと真剣な交渉を行うことを降伏もしくは反逆として封じ込めたのである。ホワイトハウスは、当初は戦略的な意味を持たなかったモスクワへの徹底的な敵対政策から撤退することが不可能であることに気づいている。
ロイド・オースティン国防長官がモスクワに即時停戦を求めたとき、ウクライナの内部危機、つまり何千人もの愛国的ウクライナ人ではなく、任務に適さない未訓練の人員が使われるという、すでに危うい状況であった。この地域と強いつながりを持つ、ある事情通の言葉を借りれば、ウクライナの状況は深刻である。
2月下旬に少なくとも100%の戦力で開戦したウクライナの平均的な旅団は、現在60%から70%に減少している。第81海兵旅団や第36海兵旅団のように、消滅してしまった旅団もある。最近動員された民間人がロシア軍司令官と連絡を取り、小隊単位で脱走するよう手配しているという報告もある。特に、開戦時に志願した献身的な職業人や愛国者はすでに死亡している。
ワシントンがウクライナに90挺のM777榴弾砲を提供したことは、確かにウクライナの決意を固めることだろう。しかし、ロシアは非常に多くの大砲システムを破壊し、これらの新しい砲も数週間で破壊される可能性がある。また、ロシアはM777砲の重要部品であるチタンの世界最大の輸出国である。米軍のジャベリンやスティンガーミサイルの備蓄のおよそ3分の1から半分が、すでにウクライナに輸送されている。果たして米国の産業基盤は、このような取り組みを維持する準備ができているのだろうか。
バイデン政権は、もしまだ戦う意志のあるウクライナ人兵士がいるならば、米国の軍事支援はロシアとの戦争を続けることができると、確かに主張できる。しかし、その代償は?東ウクライナは破壊された。西ウクライナも壊滅させる計画なのだろうか。
世界の穀倉地帯の重要な部分である西ウクライナを「ウクライナ」にしてしまうのは、純粋にロシアを白人にしたいというワシントンの決意を満たすためであり、ウクライナ人や多くのヨーロッパの指導者にとって不吉な予感がするはずだ。まいどのことながら、ワシントンDCの勇敢な人々は、ウクライナの人々にこの地獄の年月を過ごさせることを望んでいる。ロシアとの紛争を擁護する人々の中に、アメリカの有権者の大多数が含まれていないことは確かだ。
ロシアに対する憎悪でワシントンに匹敵するのはワルシャワだけだ。ポーランド首相は最近の発言で、ロシアの怪しげなイデオロギー(彼の考えでは20世紀の共産主義やナチズムに相当)を破壊しなければならないと主張した。この主張とウクライナ軍のナチスの存在をどう折り合いをつけるのか理解できないが、ワシントンのモスクワに対する容赦ない憎悪も同じようなものである。
ベルリン、パリ、ローマ、大陸の首都にいるヨーロッパの指導者たちは、ワシントンによるウクライナでの終わりのない対ロシア戦争を維持するために、自国の政府と社会を内政上の激変の危険にさらすことをいとわないのか、いま問われている。ドイツ政府によると、ロシアはウクライナが主に北アフリカやアジアに2000万トンの穀物を輸出するのを妨げている。一方、ベルリンは、ロシアの石油とガスに対するドイツやヨーロッパの禁輸や関税を求める声を支持しない(彼らの理由は、メリットがないわけではない。)
アメリカ人とヨーロッパ人は、市場の調整を経験していない。我々の問題は循環的なものではなく、構造的、体系的な問題なのだ。食料・エネルギー危機が到来している。サプライチェーンの問題は症状であり、根本的な問題は資本の誤配分、不十分あるいは誤ったインフラ管理、そして崩壊した政治システムである。なぜか?連邦準備制度はコントロールを失った。強気相場は終わった。
この時点から、株価は転がり落ちるような下方修正を経験することになる。パウエル議長らが今さら何をしようと、その行動に大きな変化はないだろう。FRBが金利を上げれば、市場は崩壊する。これまでのように金利を抑制すれば、インフレが深刻化し、需要破壊につながる。インフレは唯一の問題ではなく、核心的な問題でもない。もっと危険なのはデフレであり、人為的に高騰させた資産価格の崩壊である。現在、世界経済を支えている2大資産は住宅ローン債権と国債であり、利回りの上昇によってどちらも危険にさらされている。
いずれにせよ、国内と欧州の深刻な経済危機という結末は同じである。この危機は、あらゆる資産、あらゆる市場に影響を及ぼす。この危機は、あらゆる資産、あらゆる市場に影響を与え、海外での紛争に対するワシントンの願望と国内でのアメリカ国民のニーズとの間のギャップを広げるだろう。
ワシントンが直面している内部危機が、他国の文化や利益をまともに尊重し、わが国の安全保障上の利益を冷静に見直すきっかけになるかどうかはわからない。しかし、故アンジェロ・コデヴィラ氏の言葉を借りれば、「互いに憎み合うアメリカ人であっても、外国の戦争、特にアメリカ国民の支持を受けていない戦争の結果が誰にとっても良いものではないことに合意することは可能なはずだ。」
ダグラス・マクレガーについて
米陸軍のダグラス・マクレガー大佐(退役)は、勲章を持つ戦闘経験者で、トランプ政権の国防長官代理の元上級顧問、5冊の本の著者である。最新作は「Margin of Victory(勝利の余白)。」Five Battles that Changed the Face of Modern War" (USNI, 2016)がある。
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