参考魚拓:潮目変わったウクライナ侵略戦争、苦境に立たされるロシア
JBプレスから。著者の渡部悦和さんは東大->自衛隊という元エリート。1978年卒業というから、吾輩より3歳くらい年上なのか。テーブルにマップを拡げ、爪楊枝の旗とかミニチュアの戦車とか兵隊を置いて分析しているといういかにも感が満載。というわけで比較参考のために魚拓取りました。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/71127
ハイマースの効果絶大、一部で包囲殲滅される露軍大隊も
2022.7.27(水)渡部 悦和
ロシア・ウクライナ戦争(露宇戦争)の戦況は明らかに変化しました。そのきっかけは米国のウクライナへの高機動ロケット砲システムHIMARS(ハイマース)供与であり、これによりウクライナ軍の反攻は近いと思います。
ウクライナ軍は5月中旬から7月中旬にかけて、ウクライナ東部ドンバス地方の戦闘において苦戦していました。理由は、ロシア軍のロケット砲や榴弾砲の圧倒的な火力により大きな損耗(1日100人から200人の死者)が出たからです。
しかし、ウクライナ軍はHIMARSを入手してから、ロシア軍の重要な燃料庫・弾薬庫などを数十箇所破壊する作戦を開始し、ロシアの兵站施設とくに弾薬集積所、司令部、砲兵戦力などを破壊しています。その後、ウクライナ軍はロシア軍が支配する飛行場、橋、輸送拠点に対してHIMARSを使用するようになりました。
さらに、ロシアの防空網を直接攻撃し、前線のはるか後方にある高価な高性能レーダーを破壊し、ロシア軍の航空優勢を拒否しています。これは画期的なことです。
ロシア軍の直近1カ月間のHIMARSへの対策を観察すると、これへの有効な対抗手段を見出せていないことが分かります。HIMARSは今後ともロシア軍にとって最大の脅威となるでしょう。
そしてウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、次のように述べてHIMARSの登場により戦況が大きく変化しつつあることを明らかにしました。
「HIMARSなどのお陰で、ウクライナ側の死傷者数が減少している」
「戦闘が最も激しかった5月と6月の時期には、1日当たり100〜200人の兵士が死亡していたものの、今は30人ほどに減り、負傷者は250人前後だ」
また、7月24日付のワシントンポスト紙*1によると、ウクライナ第2の都市ハルキウの南東に位置するイジウムの敵弾薬庫を最近HIMARSで攻撃して以来、ロシアの砲撃は以前の10の1に激減し、死傷者の数も劇的に減少しています。
一方、ロシア軍ですが、米国防省高官の7月22日の発言によると、ロシア軍が毎日数百人の死傷者を出しており、これまでに数千人の将校を失っているために指揮系統が混乱しているそうです。
ウイリアム・バーンズ米中央情報局(CIA)長官は7月20日、露宇戦争でこれまでにロシア側の死者が約1万5000人、負傷者は4万5000人に達し、人員不足の原因になっているという見方を示しています。
ゼレンスキー大統領は7月22日、次のように述べてこの戦争の継続を明らかにしました。
「ロシアが2月の侵攻後に占領したウクライナ領土を支配し続ける形での停戦はさらなる紛争拡大を招き、ロシアに次の作戦に向けて軍の立て直しを図る絶好の機会を与えることになる」
「ロシアとの戦闘をやめることは、ロシアに一息つくための休止を与えるということだ」
「2つの地域を飲み込んだマッコウクジラ(ロシア)が、今になって戦闘をやめろと言っている」
「クジラは一休みして、2年後か3年後にさらに2つの地域を占領し、またこう言う、戦闘をやめろと。それが何度も何度も繰り返されることになる」
以上のことでも明らかなように、ウクライナ軍がHIMARSを供与されたことにより、戦況が明らかに好転し、ゼレンスキー大統領の戦争継続意思も固く、ウクライナ軍の反攻は近いと思います。
ウクライナ軍の大規模な反攻の可能性
ドニプロ川を抜きにしてウクライナの歴史・政治・経済・文化などを語ることはできませんが、軍事についても同じことが言えます。ドニプロ川はウクライナを北から南に流れ黒海に至り、ウクライナを東西に分断しています。ロシア軍がドニプロ川を越えて東から西に攻撃しようとすると川が大きな障害となり、既存の橋は非常に価値の高い作戦上の要点になります。
現在、ウクライナが作戦上の焦点にしているのがヘルソン州の州都であるヘルソン市です。ヘルソン市は、ドニプロ川の西岸に位置し、黒海近くの戦略的に重要な都市です。ヘルソン市は、戦争の初期に抵抗らしい抵抗をすることなくロシア軍に占領され、露宇戦争でロシアが占領した最初の主要都市となってしまいました。
英国の秘密情報部(MI6)長官の見解
英国の秘密情報部(MI6)のリチャード・ムーア長官は7月21日、米コロラド州で開かれたアスペン安全保障フォーラムで講演を行いました。
その際に、ウクライナに侵攻を続けるロシア軍について次のように発言しました。
「そろそろ力が尽きようとしている」
「我々の評価では、ロシアは今後数週間、ますます人員と物資の確保が困難になるだろう」
「彼らは何らかの方法で一時停止しなければならず、それがウクライナ人に反撃の機会を与えることになる」
また、次のようにも述べて引き続き西側諸国によるウクライナ支援の必要性を強調しました。
「戦場で何らかの成功を収めれば、欧州の他の国々に、これは勝てる作戦だということを思い出させる重要なものとなる。特に、ガスの供給が逼迫する冬を前にしてだ」
「ウクライナ側が勝利するため、少なくとも相当な強さをもって交渉するためにウクライナへの支援を維持しなければいけない」
「もう一つの理由は、中国の習近平が鷹のように見張っているからだ」
ゼレンスキー大統領の見解
ドンバス地方での戦いはまだ終わっていませんが、ゼレンスキー大統領は、ヘルソン市のようなロシアに占領されている都市を包囲・封鎖し、ロシアの守備隊への物資や援軍を遮断し、ロシアが降伏するまで封鎖を続ける意向だと思われます。
ウクライナがロシアに大勝利を収め、戦局を好転させるためには、ヘルソン奪還が最も現実的な方法だというのが政府の立場です。そして、ヘルソン市民に対して、ウクライナ軍の反攻が開始される前に一刻も早く避難するよう促しています。
ドニプロ川の地形障害やロシア軍の配備が薄い弱点もあり、ウクライナの計画は実際、現実的かもしれません。
ゼレンスキー大統領はすでに軍に、ウクライナ南部の海辺の地域は国家経済にとって不可欠であるとして、奪還作戦を行う計画を確立するよう命令しています。ゼレンスキー大統領は、ヘルソン市に向けて軍が「一歩一歩」前進していると述べています。
ウクライナ軍の前進は、ドニプロ川の西に存在するロシアの補給線(図1の道路M14/P47)が「ますます危険にさらされる」ことを意味します。
ウクライナ軍は、ロシアの補給線に打撃を与えるために、この地域の河川に架かる橋を標的にしています。
7月19日には、ロシア軍が支配する2つの橋のうちの1つであるインヒュレット(Inhulets)川に架かるダリブスキー(Darivka)橋(図1参照)をHIMARSで攻撃し、大型車両が通過できないほどの大きな損害を与えました。
ここでもHIMARSが活躍しています。橋が完全に破壊されてしまいますと、ドニプロ川西岸に存在するロシア軍が完全に孤立することを意味します。
反対に、ウクライナ軍がドニプロ川の東側に攻撃する際には障害となります。
ヘルソン州で1000人のロシア軍を包囲している
ウクライナはすでにヘルソン州で作戦の一部を開始しています。その結果、ウクライナのヘルソン州地方軍民管理局によれば、合計44の村や町を解放したといいます。
驚くべきニュースが入っています。
ゼレンスキー大統領の国防上級顧問は、ヘルソン市北東部のヴィソコピリヤ(Vysokopillya)に駐屯する約1000人のロシア軍がウクライナ軍に包囲されたと主張していますし、それを裏付ける報道もあります。1000人ということは規模的には1個大隊戦術群(BTG)が増強されたレベルです。 現時点での情報では、1000人のロシア軍が包囲されたというのは「完全に包囲された」という状況ではなく、ウクライナ軍が包囲の体制を作ったという段階だそうです。
今後、その包囲網を狭くし圧力を強化して、ロシア軍の投降を強いることになると思います。
ロシアはヘルソン州のすべてを保持する能力はない
ロシアは現在、ヘルソン州全体で10個以上のBTGを配備している可能性があります。
ちなみに、ロシアはドンバス地方での作戦を最優先しており、イジウムとバフムートの間の最も重要な地帯に約50個のBTGを配備しているため、ヘルソンがロシアにとって最も手薄な正面になっています。
ロシア占領下のドンバスで動員されヘルソンに配備された訓練不足の部隊が増加していることも指摘されていて、人手不足が続いていることを示唆しています。
彼らは塹壕の完全なラインを構築することができません。せいぜい人口密集地や道路の交差点を守備するくらいでしょう。多くの場合、彼らは行動を調整することができません。そしてウクライナは、彼らを一人ずつ掃討することになります。
また、ロシアはドンバスでの攻勢を大幅に減らすか放棄しなければならないため、南部地域に迅速な援軍を送ることはできない状態です。
ウクライナ軍の反攻における重要な留意事項
ヘルソン市奪還のために留意すべき事項
キーウ・インディペンデントの有名な記者イリア・ポノマレンコは、その記事“What would a Ukrainian counter-offensive in Kherson look like?”で図3のようなヘルソン奪還作戦図を提示しているので簡単に説明します。
ウクライナがヘルソンでロシア軍を包囲し、降伏させるために満たすべき重要な留意事項は3つあります。
㈰ウクライナ南部ヘルソン州にあるロシアの重要拠点の一つで、最近新たに納入された西側兵器によってロシアの弾薬庫が攻撃されたノーバ・カホフカとヘルソンの東を走るM14/P47高速道路(図1参照)をウクライナがしっかりコントロールすること。
㈪ヘルソン郊外のアントニフカという町の近くにある、ドニプロ川にかかる2つのアントニフスキー橋(車両用と鉄道用)を破壊する必要があります。
この2つの橋は現在、ロシアが対岸の占領地からヘルソンの守備隊を強化するために使われています。
㈫ヘルソンの東55キロにあるノーバ・カホフカのカホフスカ水力発電所も確保しなければいけないでしょう。
このダムは、M14/P47高速道路が通る橋の役割も果たしています。
ウクライナによって高速道路が遮断されれば、ロシア軍はドニプロ川を渡ることができなくなります。
アントニフスキー橋が破壊されると、ドニプロ川東岸に渡るには、ヘルソンから200キロ以上離れたウクライナ支配下のザポリージャーに行くしかありません。
ロシア軍が包囲され、補給と援軍から遮断されて初めて成功といえます。
もし成功すれば、ヘルソンのロシア軍は巨大な自然の障害物(ドニプロ川)に移動を拒否されることになります。ウクライナがロシア軍をヘルソンにおいて包囲した場合、ウクライナは迅速かつ確実に領土を確保する必要があります。
現地の地形は、ウクライナにとって好都合となります。州内に道路がなく、ドニプロ川を渡る橋もほとんどないため、ヘルソンではロシアの兵站が滞っています。また、輸送のボトルネックにより、ロシア軍は物資を鉄道駅周辺の数カ所に集中させなければいけません。
このような飽和状態の地域は、最近米国がウクライナに供与したHIMARSの格好のターゲットとなります。7月11日にノーバ・カホフカの巨大な軍需品貯蔵所が攻撃されたのはその一例です。
ヘルソン州は、ここ数週間、ロシア軍の50近い重要施設を破壊する攻撃作戦の焦点となっています。また、ロシアがヘルソンに軍事力を展開すればするほど、現地の地形から必然的にその兵站に問題が生じます。ロシアがヘルソ州に設ける兵站線は、ウクライナ戦争における他のどの兵站線よりも長くなります。
ロシアの防空網を破壊し、ウクライナの防空網を強化する
ウクライナがHIMARSなどでロシアの防空網にできるだけ大きなダメージを与え、同時にウクライナ自身の強固で多層的な防空網を構築することが極めて重要です。
ロシアの「S-300」「S-400」「Tor-Ms」「Buk-Ms」の各種防空システムを破壊できれば、現在は使用制限をしているウクライナのバイラクタルTB2無人機に攻撃のゴーサインが出ることになるでしょう。
なお、HIMARSの威力については、7月13日にルハンスク州でロシア軍のS-400を破壊してその能力を証明しています。
ウクライナの無人機は、HIMARSとMLRSシステムの標的となる高価値目標(ロシア軍の兵站拠点とくに弾薬集積所、指揮所、飛行場、終結しているロシア軍など)の情報を収集し、ターゲッティングに貢献し、射撃効果の確認のために不可欠になっています。 また、クリミアに大量に駐留するロシア軍機に対する強力な防空も必要です。
まとめ 一般に、大規模な攻勢作戦を成功させるには、完全装備で強力な歩兵旅団を数個編成し、強力な航空支援とロシアの榴弾砲・ロケット砲を圧倒する強力な砲兵火力が必要ですが、ウクライナ軍はそれを十分に保有していません。 その意味ではウクライナ軍の攻勢作戦が簡単に成功すると考えるのは楽観的過ぎます。しかし、勝ち目はあります。
まずはHIMARSなどの長射程精密誘導兵器を活用して、ロシア軍の高価値目標を徹底的に破壊することで、相対戦闘力を有利な状況に持っていくことです。
繰り返しになりますが、高価値目標とは兵站施設とくに弾薬集積所、司令部、砲兵戦力、対空組織、レーダー、飛行場、橋、輸送拠点などです。
第2に、ロシア軍の兵力が枯渇状態にあることは注目すべき点です。
今後、HIMARSなどの火力が威力を発揮し、戦況がウクライナ軍に有利になると、もともと士気が低いロシア軍の士気がさらに低下し、戦闘拒否や脱走などが増加する可能性はあります。
第3に、ウクライナ軍が南部で攻勢をかけることは、ロシア軍に戦略的なジレンマを与えます。
徹底的に戦闘力を集中した東部ドンバス2州における作戦をどうするのか。その一部を削減して南部に転用すると、東部の作戦は進捗しなくなるでしょう。 いずれにしても、この戦争は長期間継続すると思います。プーチンに勝利を提供しないためには、西側諸国の迅速かつ継続的支援が不可欠です。
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