政府はいかにして貨幣を利用してインフレを作り出すか(翻訳)
HOW GOVERNMENT MANIPULATES MONEY AND PRODUCES INFLATION
by Edward W. Younkins
http://www.quebecoislibre.org/001028-11.htm
貨幣は商業の血液である。市場を機能させるためには安定したインフレのない通貨が必要だ。インフレはつねに市場を混乱させるのだが、その影響は立場により異なる。インフレは企業の生産計画や人員配置計画、すなわち資源の配分を狂わせる。インフレになると貨幣の価値が減るので、計画的な経済という考えかたが通用しなくなる。
インフレが起こるのは、通貨を刷りすぎるからだ。政府の通貨政策というのはこれをいかに管理するかということなのだが、ケインズ経済学は財政支出をすすめ、金本位制をなくすという思想なので、インフレのほうを向いている。
政府が通貨を自由に発行できないようにすればいい。政府が均衡財政をめざして借金を減らすように、我々有権者が要求すればいいのだ。政府が収入の範囲内で支出すれば借金をしないですむはずだ。インフレという形の目に見えない税金を排除するなら金本位制にすればいい。そうすれば政府が借金を貨幣という形に転換したり、準備高を悪用したりすることがなく、インフレは起こり得ない。
インフレとは何か
貨幣というのはコモディティーの一種で、交換媒体としてのみ価値をもつ。そもそも貨幣は市場システムが生み出したものだ。物々交換には限界があったので初期の貨幣(ゴールド)はさらに使いやすい形に進化し、交換レート(=価格)という考え方が確立された。そのうちにコモディティー(ゴールド)を貨幣とするよりも、その代用品(=紙幣)が通用するようになった。まっとうな紙幣はゴールドのようなコモディティーと交換できるはずなのだ。
インフレというのは貨幣につきものの現象だが、貨幣と信用が増大するということでもあり、その結果モノの値段が上がるという症状を呈する。インフレは貨幣の量が増えてリアルなモノの生産量よりも多くなるときに起きる。つまり貨幣の供給量がモノやサービスの供給量を上回ったときに起きるのがインフレだ。
インフレを構成するのはリアルな貨幣(=ゴールド)プラス(政府が保証する)信用貨幣である。貨幣が増えすぎると貨幣1単位の購買力が低下し、貨幣1単位で買えるモノやサービスの量が減る。政府が紙幣を大量に発行すると、貨幣の価値(購買力)が低下して物価が上がる。経済全体に紙幣が大量供給されても、リアルな財(モノやサービス)の生産量はぜんぜん変わらない。リアルなモノやサービスの量が変わらないのに紙幣が増えると物価が上がる。ちなみにアメリカでは連銀、日本では日銀だけが紙幣を刷ることができる。
なぜ政府はインフレを起こすのか?
インフレというのは政府がばらまく金額を減らしたくない政治家が悪用する、不誠実で確信犯的な政策である。政府は使いすぎた金の穴埋めのために紙幣を刷る。財政不均衡に陥った政府は紙幣を刷るということだ。税率を上げても収入が足りないとき、政府は紙幣を刷る。インフレというのは基本的に政府が使う金を減らしたくなくて、税金をこれ以上あげることができないし、人民からこれ以上(国債というかたちで)借金できないというときに起こされる。
政治家は金をばらまきたいけれど税金はあげたくない。税金を上げた政治家は再選されないからだ。そして借金を抱えた政府はインフレを起こす。政府が紙幣を増刷しても税金があがるわけじゃないのだが、いずれそのうちにみんなが紙幣の価値が下がったのを実感する。これはつまり、政府が人民から吸い上げた富をばらまくという構図だ。政府が紙幣を増刷してモノやサービスの価格を上げるというのは基本的に偽札づくりとなんら変わりはないのだが。
政府が富の再配分、すなわち格差をなくそうとするときに途方もない金をばらまくことが多い。福祉国家ではインフレが起こりやすいのだ。まじめで理性的な政治家が国の資源をしっかりと掌握して国を成長させようとし、経済的な不平等をなくそうとする。そして紙幣を増刷し、政府支出を増やし、生産性があまりない人たちを助けようとする。
インフレというのは金を貸しているほうから金を借りているほうに富を移動する。金を借りている最大の存在は政府だ。金を借りている政府が、金を借りた時点より価値が減った紙幣で借金を返すのだから、実質的に借金そのものを減らすことになる。
インフレの起こしかた
政府が通貨量を増大させるときに、いくつかの方法がある。公開市場操作というのがそのひとつで、貨幣ストックを増やし、政府の借金をマネタイズ(現金化=紙幣を刷ること)し、市中銀行がより多くの金を民間企業に貸し出せるように信用を拡大するという手法だ。
アメリカでは連邦準備銀行(日本では日本銀行)が兌換性のない(ゴールドと交換できない)貨幣の発行を管理している。金本位制のもと、国が保有するゴールドに裏打ちされた、政府が認める唯一の通貨だった。ところがいまアメリカ政府はアメリカ国民がドル紙幣とゴールドを交換する権利を否定している。税収以上の金を使いたくて、政府が保証した(というだけの根拠しかない)紙幣を連銀に命じて発行させるようになったので、ドルはゴールドと交換されなくなった。ゴールドの裏付けのない紙幣の量は雪だるま式にふくれあがる。通貨供給量が制限されるのは、たまに市中銀行に準備預金を求める場合か、下院で借金の上限が決められるときしかない。
連銀が政府から国債を直接買い付けることはめったにない。連銀は政府が国債市場で売り出した国債を市場で買うのがふつうである。結局おなじことなのだが、市場を経由したほうがプロセスが見えにくくなるのだ。
連銀が政府国債を公開市場で買い付けると、通貨供給量と信用を増やすという意味だ。連銀は自分で振り出した現金手形で国債を買う。売り手(政府)はその手形を市中銀行に預金する。市中銀行の預金高が増え、預金の何倍もの金を貸し出すことができる。市中銀行が預金準備高を増やすやりかたは、仕訳帳の貸方ページに借り手の名前と金額を記帳し、同じ金額の預け入れレシートを発行して借方に計上するのだ。(金は動かないけれど金額が左から右に移動するだけで)市中銀行は資金を調達し、預金高の数倍もの金を貸し出すことができる。準備預金をこういうふうに運用するのは、じっさいには存在しない不動産を担保に金を貸すのとおなじ詐欺的手法なのだが。
紙幣は本来100パーセント交換可能なゴールドが裏付けとしてなければならない。政府が借金を現金化できなかったり準備預金高を悪用できないなら、インフレを導入するしかない。金本位制であればインフレが起こることはほとんどない。なぜなら価格は保有するゴールドの量に依存するからだ。(より多くのゴールドを入手できない限り)紙幣の量は増やすことができないのだから、政府財務省にも連邦準備銀行にもインフレを起こすことはできない。
勝者と敗者
インフレというのはモノやサービスを購入するすべての人々にとって、ちょっとずつ値段が上がるという意味で消費税とおなじである。金をもっていても金をかりていても平等に割り当てられる税金である。そしてインフレは税金とおなじく、価格を操作し、生産パターンを変化させ、富を預金者の手から奪って浪費家に手渡し、預金する気や投資する気をなくさせ、起業する意欲を削ぐ。
数ある税金システムのなかでインフレという名の税金が悪質なのは、累進性がないところだ。収入や財産とはまったく関係なしに取り立てられる。ふつうの税金はどこで働いているのか、異なったコモディティーがもつそれぞれの需要弾性、財産や借金のタイプや有無により異なる。ところが国家が紙幣を増刷したり信用を創出するときに万民に平等に・・というわけにいかない。政府が通貨供給量を上げたその瞬間から得をする人と損をする人が出てくる。
一般的な話をすれば、給与のような固定収入で暮らす人、国債を買った人、ローンを抱えている人、貯金をしている人は損をする。いっぽい金を借りている人や地主は得をする。なかには増刷された紙幣に誰よりも早くアクセスできる人がいる。収入以上のものを買ったり、欲しいモノやサービスに対し他の人より高い値段で支払った人だ。そういう人たちは早くアクセスできるだけなく、遅れて来る人たちから毟りとっているのだが。彼らは所得が高いのでモノやサービスをインフレがひどくなる前に比較的安い値段で買うことができる。遅れてきた人は高く買わなければならない。
新しい紙幣にアクセスできる人たちはモノやサービスに高値をつけるので、モノやサービスを提供する側は値段が高くてもかまわないと考える。所得や富は紙幣が増刷された時に移動しはじめる。予想もしなかった高値でモノやサービスを売った人たちはインフレで得をしたことになる。彼らは現金資産(貨幣でカウントできる資産)をもつ人たちから「棚ぼた」的利益を得たのだ。
紙幣を増刷すると、それにいち早くアクセスできる人たちだけが昨日の値段でモノやサービスを買うことができる。いっぽうで、ずっと遅れてアクセスする人たちもいて、そういう人たちは生活に必要なモノやサービスを予想以上の高値でしか買えなくなる。そういう人たちはこれまで雇用を創出してきたタイプの人が多い。また普通は、経費より売値のほうが早く上がるのだが、それはインフレが予期できなかった場合に限られる。インフレが予期できた場合、売値に合うような形でコストを調整することができる。製品価格を上げる前に賃金・金利・原材料価格が上がってしまえば利幅が減り、利益は幻のごとく消えてしまう。
紙幣が増刷され、その紙幣が経済システムのなかを流れていくと、紙幣を増刷した意味が薄れていく。その波が最後に到達する人たちにとって、モノやサービスの価格があがったというだけの話となる。
インフレは偽の市場シグナルを生む
インフレが起きると経済の先行きを計算したり、経理係が利益を計算したりすることができなくなり、ビジネスは失敗だらけになる。インフレが起きると生産計画がめちゃめちゃになるので稀少な資源が間違った使われかたをすることもある。利益が幻のように消え、生産ミスや投資ミスがつづき、生産計画なんて意味がなくなる。儲かるはずが儲からず、値段が上がり、賃金は上がらず、偽の市場シグナルに基づいた意思決定が大きく間違えた結果につながる。
インフレが起きると、儲けを貯蓄して生産設備に投資しようという考えがアホに思えてくる。そして生産がはかどらなくなる。生産がはかどらないと消費すべきモノが出回らないし、貯蓄も投資も減退する。投資が減退すると生産も減退し、悪循環になる。先行き不透明になると、インフレで儲かった利益よりも投資・雇用・生産が減退するほうが大きくなる。
政府がみずからの借金をまかなうため、そして経済を活性化するために紙幣を増刷すると、モノの値段が上がる。人々の財布には紙幣が増えるが、紙幣そのものの購買力が減衰する。インフレになると紙幣の価値が減り、その減った分で政府は借金を帳消しにする。通貨当局がインフレを起こして貨幣価値を毀損すると、人々はそれを受け入れざるを得ない。紙幣の価値を毀損して大いに得をするのは大きな借金を背負った政府だ。貨幣価値が毀損すると、金を貸したほうが購買力を失って損をし、金を借りたほう(政府)が同じ額を手にする。借金を偽札で支払われたら貸したほうが倒産する。累進課税がインフレ調整されなければ、額面だけ膨れあがった賃金やしさんに対する高率の税金を納めなければならなくなる。累進課税をインフレ調整しなければ政府の法人税収が増える。減価償却や製造経費が過少申告され、利益が過大申告されたら税金が高くなる。
政府が景気刺激策を考えるとき、中央銀行(連銀)に金利を低くしてくれと頼む。そのために中央銀行は貨幣流通量を増やさなければならない。金利低下は貸し出し可能な資金を増やすことで引き下げられる。つまり中央銀行に国債を買い入れさせたり、あるいは借金を直接マネタイズする(=紙幣を増刷する)ということだ。通貨当局が通貨量や信用量を増やすとまず金利が下がる。資金を借りやすくなるので企業は業務拡大の方向に誘導され、土地、労働力、資本が積みあげられる。そうなると貸し手がリアルなリターンを求めてくる。増刷した紙幣が経済システム全体に行き渡るころ、金利がもとに戻り、間違いが表面化する。
インフレになると貯蓄や投資への意欲が挫け、貯蓄以外の方法を探すようになる。手持ちの現金の価値が下がるのがわかっているのに一所懸命働き、金を貯めて投資するやつがいるだろうか?みなレアメタルやダイアモンドや不動産や機械設備、なかにはレアもの切手、アンティーク家具、美術品、レアもの書籍、コイン、銃器などに投資するようになる。財産や現金がその価値(=購買力)を減じることがない限り、貯蓄や投資はしない。
こういう理屈をわかっていない政治家はインフレを民間セクターのせいにしたり、価格統制をしようなどと言う。価格統制なんてやってもインフレは止められない。価格統制をしたところで利幅が減るだけなので生産意欲が削がれ、モノ不足になるだけだ。さらに重要なことは、価格統制は自由経済と相入れないということだ。
本当の通貨政策リフォーム
なにがあっても価値がほとんど変わらないものに紙幣をリンクさせる制度として、金本位制こそが何よりだ。これがあれば政府官僚の気まぐれに右往左往しないで済む。その政府官僚が通貨制度を独占支配しているのだが。それはともかく金本位制のもとでは通貨供給量は、政府官僚や政治家がなんと言おうと一定している。ゴールドが貨幣の価値を決めるのだから。金本位制なら政府官僚や政治家にやりたい放題させることはあり得ない。
ゴールドとの兌換性、金本位制こそが政府の権限を制限し、一般大衆が貨幣を信頼し、市場原理を復活させ、インフレという名の税金から市民を守るのだ。
金本位制であれば市場ベースの安定した通貨を提供できるので人々は働いて得た成果を交換したり貯蓄することができる。安定した通貨であれば通貨の評価を下げるようなことは政府でもできない。インフレ政策などできないし、均衡財政のために福祉政策を犠牲にしなければならない。金本位制なら税収を増やした分しか使うことはできない。
金本位制のもとで貨幣は完全にゴールドと交換可能となる。貨幣と信用を増大させようにも、それじゃあ紙幣をドルに換えてくれと言われた途端にそんな政策はストップしてしまう。紙幣をゴールドの形で償還するようになれば政府は紙幣の増刷やばらまき財政を止めざるを得ない。
金本位制のもとで銀行は、預金のうち貸し出しに割り当てられた分以上の金を貸し出すことはできない。同じ金を同時に複数の人に貸すことはできない。ゴールドはその本来もつ性質と稀少性から交換経済の理想的な媒介物とされてきた。ゴールドの供給量はぼちぼちながら増えているが、金本位制のもとでのインフレは無視できる程度である。ゴールドの供給増加といっても1年あたりで1.5〜3パーセントにすぎない。ゴールドの保有量は増えこそすれ減ることはない。もし貨幣がゴールドなら、ゴールドがより多く採掘され、精錬され、成型されたとして、そのほとんどはマネー市場ではなく製造業や歯医者や装飾品に使われるだろう。
世界貿易の決済手段としてゴールドは適切だろうか?確かにゴールドの価値は経済成長のスピードの追いつかないかもしれないが、問題はない。いま流通している貨幣の量はいま行われている交易の量に比べて十分なのだから。デフレが起こるかもしれないが、それは物価が下がるということだ。
by Edward W. Younkins
http://www.quebecoislibre.org/001028-11.htm
貨幣は商業の血液である。市場を機能させるためには安定したインフレのない通貨が必要だ。インフレはつねに市場を混乱させるのだが、その影響は立場により異なる。インフレは企業の生産計画や人員配置計画、すなわち資源の配分を狂わせる。インフレになると貨幣の価値が減るので、計画的な経済という考えかたが通用しなくなる。
インフレが起こるのは、通貨を刷りすぎるからだ。政府の通貨政策というのはこれをいかに管理するかということなのだが、ケインズ経済学は財政支出をすすめ、金本位制をなくすという思想なので、インフレのほうを向いている。
政府が通貨を自由に発行できないようにすればいい。政府が均衡財政をめざして借金を減らすように、我々有権者が要求すればいいのだ。政府が収入の範囲内で支出すれば借金をしないですむはずだ。インフレという形の目に見えない税金を排除するなら金本位制にすればいい。そうすれば政府が借金を貨幣という形に転換したり、準備高を悪用したりすることがなく、インフレは起こり得ない。
インフレとは何か
貨幣というのはコモディティーの一種で、交換媒体としてのみ価値をもつ。そもそも貨幣は市場システムが生み出したものだ。物々交換には限界があったので初期の貨幣(ゴールド)はさらに使いやすい形に進化し、交換レート(=価格)という考え方が確立された。そのうちにコモディティー(ゴールド)を貨幣とするよりも、その代用品(=紙幣)が通用するようになった。まっとうな紙幣はゴールドのようなコモディティーと交換できるはずなのだ。
インフレというのは貨幣につきものの現象だが、貨幣と信用が増大するということでもあり、その結果モノの値段が上がるという症状を呈する。インフレは貨幣の量が増えてリアルなモノの生産量よりも多くなるときに起きる。つまり貨幣の供給量がモノやサービスの供給量を上回ったときに起きるのがインフレだ。
インフレを構成するのはリアルな貨幣(=ゴールド)プラス(政府が保証する)信用貨幣である。貨幣が増えすぎると貨幣1単位の購買力が低下し、貨幣1単位で買えるモノやサービスの量が減る。政府が紙幣を大量に発行すると、貨幣の価値(購買力)が低下して物価が上がる。経済全体に紙幣が大量供給されても、リアルな財(モノやサービス)の生産量はぜんぜん変わらない。リアルなモノやサービスの量が変わらないのに紙幣が増えると物価が上がる。ちなみにアメリカでは連銀、日本では日銀だけが紙幣を刷ることができる。
なぜ政府はインフレを起こすのか?
インフレというのは政府がばらまく金額を減らしたくない政治家が悪用する、不誠実で確信犯的な政策である。政府は使いすぎた金の穴埋めのために紙幣を刷る。財政不均衡に陥った政府は紙幣を刷るということだ。税率を上げても収入が足りないとき、政府は紙幣を刷る。インフレというのは基本的に政府が使う金を減らしたくなくて、税金をこれ以上あげることができないし、人民からこれ以上(国債というかたちで)借金できないというときに起こされる。
政治家は金をばらまきたいけれど税金はあげたくない。税金を上げた政治家は再選されないからだ。そして借金を抱えた政府はインフレを起こす。政府が紙幣を増刷しても税金があがるわけじゃないのだが、いずれそのうちにみんなが紙幣の価値が下がったのを実感する。これはつまり、政府が人民から吸い上げた富をばらまくという構図だ。政府が紙幣を増刷してモノやサービスの価格を上げるというのは基本的に偽札づくりとなんら変わりはないのだが。
政府が富の再配分、すなわち格差をなくそうとするときに途方もない金をばらまくことが多い。福祉国家ではインフレが起こりやすいのだ。まじめで理性的な政治家が国の資源をしっかりと掌握して国を成長させようとし、経済的な不平等をなくそうとする。そして紙幣を増刷し、政府支出を増やし、生産性があまりない人たちを助けようとする。
インフレというのは金を貸しているほうから金を借りているほうに富を移動する。金を借りている最大の存在は政府だ。金を借りている政府が、金を借りた時点より価値が減った紙幣で借金を返すのだから、実質的に借金そのものを減らすことになる。
インフレの起こしかた
政府が通貨量を増大させるときに、いくつかの方法がある。公開市場操作というのがそのひとつで、貨幣ストックを増やし、政府の借金をマネタイズ(現金化=紙幣を刷ること)し、市中銀行がより多くの金を民間企業に貸し出せるように信用を拡大するという手法だ。
アメリカでは連邦準備銀行(日本では日本銀行)が兌換性のない(ゴールドと交換できない)貨幣の発行を管理している。金本位制のもと、国が保有するゴールドに裏打ちされた、政府が認める唯一の通貨だった。ところがいまアメリカ政府はアメリカ国民がドル紙幣とゴールドを交換する権利を否定している。税収以上の金を使いたくて、政府が保証した(というだけの根拠しかない)紙幣を連銀に命じて発行させるようになったので、ドルはゴールドと交換されなくなった。ゴールドの裏付けのない紙幣の量は雪だるま式にふくれあがる。通貨供給量が制限されるのは、たまに市中銀行に準備預金を求める場合か、下院で借金の上限が決められるときしかない。
連銀が政府から国債を直接買い付けることはめったにない。連銀は政府が国債市場で売り出した国債を市場で買うのがふつうである。結局おなじことなのだが、市場を経由したほうがプロセスが見えにくくなるのだ。
連銀が政府国債を公開市場で買い付けると、通貨供給量と信用を増やすという意味だ。連銀は自分で振り出した現金手形で国債を買う。売り手(政府)はその手形を市中銀行に預金する。市中銀行の預金高が増え、預金の何倍もの金を貸し出すことができる。市中銀行が預金準備高を増やすやりかたは、仕訳帳の貸方ページに借り手の名前と金額を記帳し、同じ金額の預け入れレシートを発行して借方に計上するのだ。(金は動かないけれど金額が左から右に移動するだけで)市中銀行は資金を調達し、預金高の数倍もの金を貸し出すことができる。準備預金をこういうふうに運用するのは、じっさいには存在しない不動産を担保に金を貸すのとおなじ詐欺的手法なのだが。
紙幣は本来100パーセント交換可能なゴールドが裏付けとしてなければならない。政府が借金を現金化できなかったり準備預金高を悪用できないなら、インフレを導入するしかない。金本位制であればインフレが起こることはほとんどない。なぜなら価格は保有するゴールドの量に依存するからだ。(より多くのゴールドを入手できない限り)紙幣の量は増やすことができないのだから、政府財務省にも連邦準備銀行にもインフレを起こすことはできない。
勝者と敗者
インフレというのはモノやサービスを購入するすべての人々にとって、ちょっとずつ値段が上がるという意味で消費税とおなじである。金をもっていても金をかりていても平等に割り当てられる税金である。そしてインフレは税金とおなじく、価格を操作し、生産パターンを変化させ、富を預金者の手から奪って浪費家に手渡し、預金する気や投資する気をなくさせ、起業する意欲を削ぐ。
数ある税金システムのなかでインフレという名の税金が悪質なのは、累進性がないところだ。収入や財産とはまったく関係なしに取り立てられる。ふつうの税金はどこで働いているのか、異なったコモディティーがもつそれぞれの需要弾性、財産や借金のタイプや有無により異なる。ところが国家が紙幣を増刷したり信用を創出するときに万民に平等に・・というわけにいかない。政府が通貨供給量を上げたその瞬間から得をする人と損をする人が出てくる。
一般的な話をすれば、給与のような固定収入で暮らす人、国債を買った人、ローンを抱えている人、貯金をしている人は損をする。いっぽい金を借りている人や地主は得をする。なかには増刷された紙幣に誰よりも早くアクセスできる人がいる。収入以上のものを買ったり、欲しいモノやサービスに対し他の人より高い値段で支払った人だ。そういう人たちは早くアクセスできるだけなく、遅れて来る人たちから毟りとっているのだが。彼らは所得が高いのでモノやサービスをインフレがひどくなる前に比較的安い値段で買うことができる。遅れてきた人は高く買わなければならない。
新しい紙幣にアクセスできる人たちはモノやサービスに高値をつけるので、モノやサービスを提供する側は値段が高くてもかまわないと考える。所得や富は紙幣が増刷された時に移動しはじめる。予想もしなかった高値でモノやサービスを売った人たちはインフレで得をしたことになる。彼らは現金資産(貨幣でカウントできる資産)をもつ人たちから「棚ぼた」的利益を得たのだ。
紙幣を増刷すると、それにいち早くアクセスできる人たちだけが昨日の値段でモノやサービスを買うことができる。いっぽうで、ずっと遅れてアクセスする人たちもいて、そういう人たちは生活に必要なモノやサービスを予想以上の高値でしか買えなくなる。そういう人たちはこれまで雇用を創出してきたタイプの人が多い。また普通は、経費より売値のほうが早く上がるのだが、それはインフレが予期できなかった場合に限られる。インフレが予期できた場合、売値に合うような形でコストを調整することができる。製品価格を上げる前に賃金・金利・原材料価格が上がってしまえば利幅が減り、利益は幻のごとく消えてしまう。
紙幣が増刷され、その紙幣が経済システムのなかを流れていくと、紙幣を増刷した意味が薄れていく。その波が最後に到達する人たちにとって、モノやサービスの価格があがったというだけの話となる。
インフレは偽の市場シグナルを生む
インフレが起きると経済の先行きを計算したり、経理係が利益を計算したりすることができなくなり、ビジネスは失敗だらけになる。インフレが起きると生産計画がめちゃめちゃになるので稀少な資源が間違った使われかたをすることもある。利益が幻のように消え、生産ミスや投資ミスがつづき、生産計画なんて意味がなくなる。儲かるはずが儲からず、値段が上がり、賃金は上がらず、偽の市場シグナルに基づいた意思決定が大きく間違えた結果につながる。
インフレが起きると、儲けを貯蓄して生産設備に投資しようという考えがアホに思えてくる。そして生産がはかどらなくなる。生産がはかどらないと消費すべきモノが出回らないし、貯蓄も投資も減退する。投資が減退すると生産も減退し、悪循環になる。先行き不透明になると、インフレで儲かった利益よりも投資・雇用・生産が減退するほうが大きくなる。
政府がみずからの借金をまかなうため、そして経済を活性化するために紙幣を増刷すると、モノの値段が上がる。人々の財布には紙幣が増えるが、紙幣そのものの購買力が減衰する。インフレになると紙幣の価値が減り、その減った分で政府は借金を帳消しにする。通貨当局がインフレを起こして貨幣価値を毀損すると、人々はそれを受け入れざるを得ない。紙幣の価値を毀損して大いに得をするのは大きな借金を背負った政府だ。貨幣価値が毀損すると、金を貸したほうが購買力を失って損をし、金を借りたほう(政府)が同じ額を手にする。借金を偽札で支払われたら貸したほうが倒産する。累進課税がインフレ調整されなければ、額面だけ膨れあがった賃金やしさんに対する高率の税金を納めなければならなくなる。累進課税をインフレ調整しなければ政府の法人税収が増える。減価償却や製造経費が過少申告され、利益が過大申告されたら税金が高くなる。
政府が景気刺激策を考えるとき、中央銀行(連銀)に金利を低くしてくれと頼む。そのために中央銀行は貨幣流通量を増やさなければならない。金利低下は貸し出し可能な資金を増やすことで引き下げられる。つまり中央銀行に国債を買い入れさせたり、あるいは借金を直接マネタイズする(=紙幣を増刷する)ということだ。通貨当局が通貨量や信用量を増やすとまず金利が下がる。資金を借りやすくなるので企業は業務拡大の方向に誘導され、土地、労働力、資本が積みあげられる。そうなると貸し手がリアルなリターンを求めてくる。増刷した紙幣が経済システム全体に行き渡るころ、金利がもとに戻り、間違いが表面化する。
インフレになると貯蓄や投資への意欲が挫け、貯蓄以外の方法を探すようになる。手持ちの現金の価値が下がるのがわかっているのに一所懸命働き、金を貯めて投資するやつがいるだろうか?みなレアメタルやダイアモンドや不動産や機械設備、なかにはレアもの切手、アンティーク家具、美術品、レアもの書籍、コイン、銃器などに投資するようになる。財産や現金がその価値(=購買力)を減じることがない限り、貯蓄や投資はしない。
こういう理屈をわかっていない政治家はインフレを民間セクターのせいにしたり、価格統制をしようなどと言う。価格統制なんてやってもインフレは止められない。価格統制をしたところで利幅が減るだけなので生産意欲が削がれ、モノ不足になるだけだ。さらに重要なことは、価格統制は自由経済と相入れないということだ。
本当の通貨政策リフォーム
なにがあっても価値がほとんど変わらないものに紙幣をリンクさせる制度として、金本位制こそが何よりだ。これがあれば政府官僚の気まぐれに右往左往しないで済む。その政府官僚が通貨制度を独占支配しているのだが。それはともかく金本位制のもとでは通貨供給量は、政府官僚や政治家がなんと言おうと一定している。ゴールドが貨幣の価値を決めるのだから。金本位制なら政府官僚や政治家にやりたい放題させることはあり得ない。
ゴールドとの兌換性、金本位制こそが政府の権限を制限し、一般大衆が貨幣を信頼し、市場原理を復活させ、インフレという名の税金から市民を守るのだ。
金本位制であれば市場ベースの安定した通貨を提供できるので人々は働いて得た成果を交換したり貯蓄することができる。安定した通貨であれば通貨の評価を下げるようなことは政府でもできない。インフレ政策などできないし、均衡財政のために福祉政策を犠牲にしなければならない。金本位制なら税収を増やした分しか使うことはできない。
金本位制のもとで貨幣は完全にゴールドと交換可能となる。貨幣と信用を増大させようにも、それじゃあ紙幣をドルに換えてくれと言われた途端にそんな政策はストップしてしまう。紙幣をゴールドの形で償還するようになれば政府は紙幣の増刷やばらまき財政を止めざるを得ない。
金本位制のもとで銀行は、預金のうち貸し出しに割り当てられた分以上の金を貸し出すことはできない。同じ金を同時に複数の人に貸すことはできない。ゴールドはその本来もつ性質と稀少性から交換経済の理想的な媒介物とされてきた。ゴールドの供給量はぼちぼちながら増えているが、金本位制のもとでのインフレは無視できる程度である。ゴールドの供給増加といっても1年あたりで1.5〜3パーセントにすぎない。ゴールドの保有量は増えこそすれ減ることはない。もし貨幣がゴールドなら、ゴールドがより多く採掘され、精錬され、成型されたとして、そのほとんどはマネー市場ではなく製造業や歯医者や装飾品に使われるだろう。
世界貿易の決済手段としてゴールドは適切だろうか?確かにゴールドの価値は経済成長のスピードの追いつかないかもしれないが、問題はない。いま流通している貨幣の量はいま行われている交易の量に比べて十分なのだから。デフレが起こるかもしれないが、それは物価が下がるということだ。
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