2022年7月29日金曜日

参考魚拓2:戦争の「出口戦略」で決断迫られるプーチン大統領

著者の吉田成之さんは、1977年卒業というから吾輩より4歳くらい年上なのだろう。東京外大ロシヤ語なので、ロシア語とか、おそらくウクライナ語にもアクセスできるだろうし、長年のジャーナリスト生活で、知己やインフォーマントなどコネも豊富に違いない。前述のJBプレスと違って、彼が書いている東洋経済は我が国のメディアでいちばんマシな論調。その吉田さんをもってしても、英米協調というのが結論なのが情けない。というか、もう爺さんなので長年の米帝追従が習い性になっているのだろうか。爺様の存命中に米帝国が意外とあっさり崩壊するような気がする吾輩である。

https://toyokeizai.net/articles/-/606662

どこまで制圧すれば「勝利」かをめぐり政権内で対立

吉田 成之 : 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

開始から5カ月が過ぎたウクライナ侵攻。東部制圧作戦を展開しているロシア軍の攻勢に、ペースダウンの兆候が見え始めている。同時にアメリカやヨーロッパから高性能兵器の供与が本格化する中、ウクライナ軍が南部で反攻に向けた動きを見せ始めるなど、膠着していた戦況に変化の兆しが出ている。

このような状況でクレムリン内部では、侵攻の出口戦略をめぐり2つの高官グループ間で意見対立が起きているとの観測が強まっている。両グループからの進言を受けてプーチン氏がどのような決断を行うのか。これが今後の戦争の行方を大きく左右することになりそうだ。

一方で、侵攻が膠着状態のまま長期戦に陥ることを避けるため、ウクライナが一定の軍事的勝利を収められるよう、米欧がより踏み込んだ大規模軍事支援を行う新戦略に舵を切ったこともわかった。

「早期終結派」と「戦線拡大派」の対立

クレムリン内の2つの高官グループは、大まかに戦争の「早期終結派」と「戦線拡大派」に分類できる。

前者の主張は、このようなものだ。現在ロシア軍は掌握済みの東部ルガンスク州に加えて、隣のドネツク州の攻略を急いでいるが、両州を合わせた、いわいるドンバス地方全体を制圧することをもって作戦を終了して「戦勝」を宣言する。さらに、すでにほとんどを占領した南部ヘルソン州の一部から撤退して、ウクライナ側に一定の「善意」を示すというものだ。この善意とは、侵攻終結後のウクライナとの和平交渉を円滑に進めるための歩み寄りのメッセージを意図したものとみられる。

後者の「戦線拡大派」は、ドンバス地方制圧後も侵攻を継続し、ヘルソンはもちろん、オデーサ(オデッサ))、ザポリージャ(ザポロジェ)などの南部各州や東部ハリキウ(ハリコフ)州、さらにウクライナの隣国モルドバの占領を目指すというものだ。

前者を主張しているのは、国防省や治安機関の大部分で、一部の政府高官や新興財閥も同様の立場という。後者を主張しているのが、政権のナンバー2であるパトルシェフ安保会議書記と、オリガルヒ(新興財閥)の中でもプーチン氏に一番近いと言われるウスマノフ氏という最側近の2人。大統領への影響力という点では明らかに後者の方が前者を圧倒している。

パトルシェフ氏が戦線拡大を主張する背景には、プーチン大統領の後継レースへの思惑も関係しているといわれる。息子で農業相のドミトリー氏を次期大統領の座に据えたい父親とすれば、侵攻前にすでに多くを支配していたドンバス地方の全面制圧だけでは物足りない。ドンバスから制圧地域を大幅に広げるという軍事的大勝利でプーチン政権を盤石にし、息子への後継の流れを固めたいとの狙いがあるとみられている。

一方で、軍部が早期終結案を支持するのは当然と言える。キーウ(キエフ)に進軍すれば、住民が花束を持って迎え、数日間で首都を制圧できるとのロシア連邦保安局(FSB)の事前説明を信じて2022年2月24日に侵攻したロシア軍は、ウクライナ軍の頑強な抵抗に遭い敗退。FSBとともに軍の権威は一気に崩れた。プーチン氏の友人でもあるショイグ国防相は今のところ地位を保っているものの、制服組トップのゲラシモフ参謀総長は今や公式の場に姿を見せないままで、地位を保っているかどうかも不明だ。

おまけに部隊の士気低下や兵員確保にも苦労しており、ロシア軍は疲弊しきっている。早期に戦勝を宣言して、軍の立て直しを図りたいと望んでいるのだろう。

何をもって勝利とするのか

しかし、そもそも開始から5カ月も経過しているのに「何をもって勝利とするのか」が決まっていない事態は、ロシア国内から批判を招いている。プーチン氏が初当選した2000年の大統領選で選挙戦略を練り「プーチンを造った男」と呼ばれる政治アナリスト、パブロフスキー氏は戦争の目的を明確にしないプーチン氏に非があると指摘する。

侵攻開始時にはウクライナ全体の「非軍事化」と「非ナチ化」を掲げたプーチン氏だが、全土制圧から東部ドンバス地方制圧に作戦を切り替えた際は「ドンバスの住民保護」に大義名分を切り替えた。

パブロフスキー氏は「政府幹部や軍部は今、いったい何の目的で戦っているのか理解できていない。今、私が懸念しているのは、この戦争をどうやって終わらせるのか、出口をどうやって見つけるのかについて、クレムリンから何も聞こえてこないことだ。プーチン氏がクレムリン内部で明確に話せば、漏れて来るはずだが、まだ漏れてこない」と批判する。

「早期終結派」と「戦線拡大派」のいずれの意見を選択するのか。本稿執筆段階でプーチン氏が決断をしたとの確定的情報はない。

もともと、プーチン氏は侵攻時、ウクライナ全体の制圧だけでなく、旧ソ連加盟国であるモルドバなどの占領も含め、大規模な長期戦を想定していたと言われる。しかし、こうしたプーチン氏の常軌を逸した願望と、今回脆弱性が露呈した実際のロシア軍の実力との乖離はますます大きくなっている。出口戦略をめぐり軍部から「早期終結論」が出た背景にこの乖離があるのは間違いない。

一方、「戦線拡大論」をめぐっても、プーチン氏には懸念材料がある。南部諸州で占領地域を拡大した場合、大きな政治的成果とはなるが、他方でその占領体制の維持は容易でないからだ。2014年のクリミア併合後にロシア軍が親ロ派「共和国」を樹立し、実効支配したドンバス地方と異なって、南部諸州を新たに制圧しても軍事的に防衛するのは簡単ではない。様々な占領コストもかかる。

南部奪還を目指すウクライナ軍

米欧から高性能兵器を供与され戦力を強化したウクライナ軍は、開始を目指している本格的反攻作戦の最初のターゲットを南部に絞っている。仮に奪還された場合、プーチン氏にとって初めての戦争での「領土喪失」になり、国民からの信頼を失うという大きな政治的打撃となる。つまり、制圧地域を広げることが、逆に政治的リスクも大きくするのだ。

事実、占領地域では最近、ウクライナ人ゲリラによるロシア軍への攻撃や親ロ派幹部へのテロ攻撃も目立って増加している。決断を左右するカギの1つは、このリスクをプーチン氏がどう判断するかだ。

この絡みで2022年7月20日、注目すべき発言がラブロフ外相から飛び出した。クレムリンが政治的メッセージを発信する多くの場合に使うロシア通信とのインタビューの中で、ラブロフ外相は威力を発揮し始めたM142高機動ロケット砲システム「ハイマース」などの高性能兵器を米欧が今後も供与し続ければ、ロシアがドンバス地方だけでなく、ヘルソン、ザポリージャの南部2州など他地域の軍事的な完全制圧も目指すことになると述べたのだ。外相は高性能兵器供与で侵攻の「地政学的な課題は変わった」とも強調した。

しかしこの会見内容から、プーチン氏がパトルシェフ氏らの「戦線拡大論」を選択したと判断できるかどうかは微妙だ。ハイマースなどの供与拡大を食い止めたいロシアが強硬発言で米欧を牽制したに過ぎないとも受け取れるからだ。やはりプーチン氏自身がラブロフ発言を裏書きするような発言をするかどうかが当面の焦点だ。

一方で、「戦線拡大論」やラブロフ発言とは裏腹の情報が、時期を同じくして米欧から相次いで出始めている。イギリス国外での情報活動を担うイギリス秘密情報局(MI6)のムーア長官は2022年7月21日、アメリカでの講演で、ロシア軍が勢いを失いつつあり、数週間以内にウクライナでの戦闘を一時的に停止する可能性があるとの見方を示したのだ。

ムーア氏は「ロシアは今後数週間にわたって人員供給が徐々に難しくなると考えている。ウクライナ側に反撃のチャンスが来る」との見解を示した。MI6長官がここまで明確に戦況の見通しについて公開の場で述べるのは異例だ。

長官発言と符号する見解は2022年7月初め、ロシアの軍事専門家であるパベル・ルジン氏からも出ている。同氏は、ロシア軍が損傷を受けた戦闘機や戦車の補充を早期に行う能力を欠いていると分析。さらに「現在、砲弾の不足が深刻化しており、2022年末までに砲弾の不足が決定的になるのは明らか」とも指摘した。

ロシア軍お家芸の地上砲撃が減少

かつて独裁者スターリンが大砲やロケット砲による砲撃を「戦争の王様」と呼んだように、ロシア軍は伝統的に砲撃戦を重視している。1日当たり6万発もの大量の砲撃をウクライナ側に加えて、ルハンシク(ルガンスク)州の制圧に成功した。ウクライナ側の砲撃数の約10倍に相当する圧倒的な火力を見せつけ、これまで戦闘で優位に立ってきた。

しかし、ウクライナの軍事アナリスト、オレグ・ジダーノフ氏も最近、ロシア軍の地上砲撃が減ってきたと証言する。その代わりに増えてきたのが航空機による空爆だ。だが精度が砲撃より落ちるため、ウクライナ側の被害が減っているという。

また、兵力の補充でもロシア軍は「苦戦」している。同氏によると、2022年4月に実施された春季徴兵で入隊したばかりの有期雇用兵に対する90日間の契約期間が、2022年6月末で終了した。しかし現地での戦況に幻滅し、契約を更新しない兵士が多いと言う。プーチン政権は、現在服役している兵務経験者に対しても、給与と早期出所を約束して入隊を志願するよう働きかけているが、上手く集められていないという。

こうしたロシア軍の戦力と士気双方の低下の兆しとは対照的に、米欧からの武器支援は加速度的に質量ともに増えている。バイデン政権は2022年7月22日、ウクライナに対する2億7000万ドル(約370億円)規模の追加軍事支援を発表したが、注目されるのは、ハイマース(M142高機動ロケット砲システム)4基の追加供与だ。

しかし、これ以外でも自爆型無人機「フェニックスゴースト」がウクライナ側には大きな意味を持つ。580機も供与されるフェニックスゴーストは、ウクライナ戦争の特性を受けてアメリカ軍が開発した無人機だ。精密誘導のミサイルのような役割を果たす。アメリカはさらに追加支援を行うと明言している。

ロシア軍の弾薬庫、司令部などの攻撃で成果を上げているハイマースの計16基への増強と「フェニックスゴースト」は、ウクライナ側にとって「攻撃のゲームチェンジャー」になると期待されている。ハイマースの攻撃を避けるため、ロシア軍はすでにウクライナ領内にあった弾薬庫などを後方に移動させている。このため前線の砲撃部隊への砲弾の供給に影響が出ているという。

しかし、ある西側外交筋は、アメリカ政権が射程80キロメートルのハイマースに比べ、300キロメートルと射程が大幅に長い地対地ミサイル、エイタクムス(MGM-140ATACMS)をすでに秘密裡にウクライナ軍に供給済みであることを明らかにした。ウクライナが求めていた射程300キロメートルクラスのミサイル提供について、ロシア領内への攻撃につながる恐れがあるとして、アメリカ国防総省は供与の方針を現時点で否定している。このように公式には否定していたため、発表を当面控えているとみられる。

早期の領土奪還実現へ米欧が戦略転換

エイタクムスの供与により、ウクライナ軍はロシアとの国境近くまで後方に下がった弾薬庫などの軍施設に対して「さらに追撃ができるようになった」と同筋は指摘する。加えて、ウクライナ軍は黒海沿岸にあり、激戦の末ロシア軍が制圧した南部マリウポリなどに対しても遠方から砲撃を加えることができるようになったという。

ゼレンスキー大統領は今月初め、軍に対し、ヘルソン州など南部の奪還を命じたが、ハイマースやエイタクムスの供与を踏まえた命令とみられる。

バイデン政権のほか、イギリス政府も2022年7月21日、自走式155ミリメートルミリりゅう弾砲20門などウクライナへの追加軍事支援を発表。軍事支援を大幅に強化していく方針を表明した。

ウクライナ戦争以降、米欧はこれまで、兵器の供与やウクライナ部隊訓練など着実に実施してきたが、その一方でロシアを必要以上に挑発しないよう、武器の性能や種類に関して一定の自制をしてきた。

しかし、その結果、戦況は膠着化。ロシアとウクライナとの停戦の機運も遠のいてしまった。このままでは戦争の長期化は避けられない情勢となった。加えて、ロシアから天然ガスの供給削減によってドイツなどで今年冬、深刻な燃料危機が起こる可能性も高まっている。そうなっては、エネルギーを握っているロシアへの妥協論が強まり、米欧の団結も揺らぎかねない。

このため、米欧はウクライナが一定の占領地奪還ができるよう、早期に戦場で勝利させる方針に転換したと同筋は明らかにした。米欧は一定の領土奪還を果たしたウクライナがロシアとの停戦協議に前向きになることを目指しているという。

これは、ゼレンスキー大統領が戦争終結のために領土を割譲するとの選択肢を頑強に拒否しているためだ。2022年2月24日以前の領土までロシア軍を押し返した時点か、南部奪還の段階か??。どこまで領土を奪還すればゼレンスキー大統領が停戦協議に応じるのか。これについて、同筋は「わからない」と強調したうえで、2022年冬ぐらいまでにウクライナ軍に有利な状況を造ったうえで、何らかの停戦を実現するというのが米欧の戦略と指摘した。

このようにロシアだけでなく、米欧、ウクライナも自らの利益を満たす「出口」に向けた動きを本格化させている。このため2022年8月以降、ウクライナ情勢は極めて重要な局面に入ることになりそうだ。日本政府もこうした状況を踏まえ、積極的に米欧、ウクライナに協力すべきだ。

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