2023年5月15日月曜日

スプートニク日本語版:広島生まれの「平和の鳩」は日本の再軍備では成功しても、経済面では大失敗か

https://sputniknews.jp/20230515/15990956.html

2023年5月15日, 15:55

G7広島サミット(主要7カ国首脳会議)を前に、米誌タイムは、今回のサミットでホストを務める日本の岸田文雄首相を分析する記事を掲載した。記事の冒頭に記されているのは、「恐ろしい場所」だと記者が指摘する首相官邸の説明である。というのも、首相官邸には、クーデターを起こそうと目論んだかつての首相の1人の殺害事件に関するドラマティックな歴史が残されているからである。しかし、首相就任後すぐにここに居を移した岸田首相は、こうした「負のエネルギー」などまったく恐れていないようである。

最近、首相自身、襲撃事件に遭い、もう少しで「官邸の亡霊」の仲間入りをするところであったが、岸田首相の野望は、おそらく首相自身が一貫して親米路線をとっている日本という国の過去の亡霊も、未来の亡霊も恐れさせない力を持っている。

東京テンプル大学アジア研究センターのジェフ・キングストン所長は、現在の日本の首相を次のように特徴づけている。

「岸田首相は刺激的な指導者ではないかもしれませんが、自分のアジェンダを推進するという意味では、非常に効果的であることが証明されています」

実際、安倍元首相と比較すれば、岸田首相は、かなり短期間で国の方向性を大きく変えることに成功した。平和主義からどんどんと遠ざかり、軍国主義の復興に向けて大きく舵を切っているのである。

最も驚くべきことは、かつて安倍元首相は、日本の平和憲法の改正を求める「タカ派」としての名声を保っていたということである。しかし、広島出身で、「ハト派的な性格」を持った岸田首相が、類を見ないほどの防衛費増大、先制攻撃に関する修正案、戦略兵器の調達、自衛隊の大々的な近代化といったことを、いとも簡単にやってのけた。

とはいえ、日本で進められている再軍備は、核なき世界を作るために努力するという岸田首相の以前からの公約に反するものだと考える人もいる。

岸田首相のもう一つの大きな野望は、日本経済の大規模な近代化である。岸田首相は、再分配政策で分厚い中間層を再構築し、「新しい資本主義」を実現し、世界第3の経済国である日本を世界一の経済大国に戻すとしている。というのも、1980年代には、日本の所得は米国を上まわっていたが、現在は平均で40%も米国を下回っているのである。そこで、岸田首相のミッションは、日本を立ち直らせることである。

しかしながら、この経済改革において、岸田首相は困難に直面している。タイム誌は、岸田首相の内政の計画は、不明瞭な「資産所得倍増プラン」に基づいたものであるが、その大きな問題は、富裕層に負担をかけることなく、再分配に要する資金をどのように捻出するのかということである。加えて、日本の国債はGDP(国内総生産)の256%となっており、これは米国の2倍に相当するものであるが、岸田首相が借金を続けることは難しい状況である。株式の配当金や譲渡益といった金融所得にかかる金融所得課税を引き上げると岸田首相が提唱したとき、株価は暴落した。

歴史学博士で、ロシア外務省附属モスクワ国際関係大学東洋学科長、ロシア科学アカデミー中国近代アジア研究所の主任研究員を務めるドミトリー・ストレリツォフ氏は、「スプートニク」からのインタビューに応じ、岸田首相が選挙で勝利したこと自体が、経済不調の原因であると指摘している。

「現在、岸田政権の成果というのは、事実、矛盾したものになっています。ある局面では大きな功績を上げているものの、一方で別の局面では目立った成果はありません。ですから、首相としての彼の評価は二義的です。

また岸田政権に入ってからの経済における変化を評価するとき、大きな成果がでたかどうかは後になってみないと分からない。少なくとも、5年はかかります。一方で、岸田首相が政権に就いてからまだ1年半しか経っていません。

しかも、日本の経済状況は世界経済から派生したものであり、景気は政府が作用できるものではありません。日本の経済は依然として、外交関係、市場、外国で行われた投資による収入に左右され、第三次産業は外国企業のために稼働しています。一方、世界経済には発展が見られず、日本経済にも成長は見られません。つまり、日本の所得が伸びないのは、すべてが世界情勢に依存しているからです」

加えて、社会分野において、年金改革や人口問題など、従来の日本の国内問題が残っているという事実も、状況を悪化しているとストレリツォフ氏は指摘する。

「こうした社会問題もまた、1年半で解決し、すぐに成果を出せるものではありません。つまり、人口問題においても、独自の解決策を考え出すのは難しいことです。この分野で成功するには、長年にわたる熟考の末にまとめられた政策が必要です。

しかしながら一方で、岸田首相の外交政策では、より説得力のある成果が得られています。何よりこれは、プロパガンダとして使用できる岸田首相のメディア戦略の成功でしょう。とりわけ、これは、岸田首相の積極的な外交、数多くの外国訪問の成果です。外交上の積極性で言えば、安倍元首相にまったく引けをとっていません。岸田首相には、外相を務めていた「信頼を得ていた時期」に培われた素晴らしい人間関係があります。こうした岸田首相の「外交の経験」―つまり世界のリーダーたちとの個人的な関係というものが、首相になった今、うまく活用されています。

とりわけ、米国やその同盟国との関係です。従って、岸田政権の路線はもちろん新欧米路線であり、NATO寄りです。安倍元首相が推し進めていたあからさまな愛国主義はありません。

そして、対ロシア外交に関しても、岸田首相は安倍元首相とはまったく異なった立場をとっています。

さらに、地域の軍事政治的バランスが中国に有利に傾いていることから、日本の世論も次第に平和主義から距離を置きつつあります。岸田首相は社会のこうしたムードをうまく『キャッチ』し、防衛費増額や最新型兵器の開発などを進めています」

しかし、順調な分野においても、困難が生じる可能性があるとストレリツォフ氏は指摘する。

「防衛分野での近代化を進めるための資金をどのように捻出するのかについてはいまだに不明瞭なのです。というのも、国家予算は収支の均衡が取れていないからです。国債が非常に多く、しかも多額の国債費がかかります。ですから、野望的な防衛プランを実行するには、国債を増やすか増税するしかありません。しかしこれは非常に厳しい問題です。というのも、日本では増税というものをきわめて否定的に捉えられているからです。従って、防衛費の増大(最大GDPの2%)の財源をどのように確保するのかは、依然、分からない状態です」

というのも、これを自分の生活を犠牲にしてまで行おうという者はいない。なぜなら、もし消費税が防衛費の財源となるとしたら、これは間違いなく、日本社会に厳しい反応を起こすことになるからだ。ストレリツォフ氏は、政治への影響もあり得るとして、さらに次のように述べている。

「唯一、今の状況で岸田首相にとって幸いなのは、近いうちに選挙がないということでしょう。次の選挙は2025年です。

一方で5月に岸田首相は、広島サミットをホストとして開催します。これを背景に、首相は現在、積極的に地域外交に励んでいます。韓国を訪問し、これは社会でも支持を得ました。

さらに、G7サミット後に衆院解散、総選挙があるという予測も立てられています。このようにして、衆院で自民党の絶対安定多数をさらに強固なものにしようとしています」

ドミトリー・ストレリツォフ氏は、これは十分にありえることだと指摘する。というのも、今後の数年で、支持率を上げるために、岸田首相にはそれ以外に効果的な手がないからだとストレリツォフ氏は述べる。

「つまり、日本でのG7サミットは岸田首相にとって、今の首相として持っている可能性のピークになるのです。ですから、岸田首相が、この機会を利用して、自民党の『優位性』を拡大しようとしているという可能性も除外できません。もし岸田首相がこれを実際に成し遂げることができれば、政治界における自身の権力を長期にわたって確固たるものにすることができるでしょう」

そしてもしそうなれば、岸田首相も、安倍元首相の成功を繰り返し、日本の首相として「長生き」できるだろうと、ストレリツォフ氏は述べている。広島で予定されているサミットでもっとも大胆な予想について言えば、一般的にホスト国はG7サミットのアジェンダに何らかの修正を加えるということである。これについて、ストレリツォフ氏は次のように述べている。

「プロパガンダ的なものとしては、何より、ウクライナ情勢を始めとした欧米との連帯でしょう。

岸田首相が、台湾問題はヨーロッパには何の関係もなく、この問題に介入すべきではないと発言したフランスのマクロン大統領に議論を挑んだのにも理由があります。岸田首相はマクロン大統領の見解は正しいアプローチではないとして、これに反論しました。そして、ウクライナ問題も、日本を含む世界全体の安全問題なのだと述べたのです」

つまり、岸田首相は、地域問題ではなく、世界全体の不可分の安全があるだけだとの見解を示しているのである。そして岸田首相は、この大々的な発言を、自らの外交イメージを向上するため、広島サミットでの「最大のテーマ」として利用すると思われる。というのも、連帯した欧米と、それに対立するロシア、中国というテーマを利用して、日本が、米国とその同盟国と「一つの舟」に乗っているということを示そうとしているからだとストレリツォフ氏は指摘する。

国連安保理のメンバーでない日本は、常に、アジア諸国の中では唯一のメンバーであるG20に重きを置いてきた。そこで、故郷で開催するG7サミットは、「長年の夢」を実現するものである。そしてこれは、岸田首相にとって、日本を世界的な真のリーダーに押し上げる絶好のチャンスであるだけでなく、ありとあらゆる支持の高まりを、衆院解散と新たな議席確保のための土台として利用することができるのだとタイム誌は書いている。

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