ベン・ノートンとマイケル・ハドソン:ボラティリティ解消【抄訳】
https://michael-hudson.com/2024/08/volatility-unwound/
2024年8月9日(金)
8月5日、暴落が起きた。原因は?新たな金融危機か?
ベン・ノートン:2020年以降で最大の暴落であり、多くの投資家が株を売却した。
8月5日、S&P500のボラティリティ指数(VIX:株価がどれだけ急激に動くかを示す)は危険な高水準にある。ジェフ・ベゾス、イーロン・マスク、マーク・ザッカーバーグ、ビル・ゲイツ、ラリー・エリソンといったビッグテック寡頭株主が大きく損をした。
アルファベット、アマゾン、アップル、メタ、マイクロソフト、エヌビディア、テスラ(MAG7)は6000億ドルの株価を失った。2023年、MAG7はS&P500の年間総利益の半分を占めた。1日で、約3%下落、その額は約6000億ドル。
アメリカでは、人口のわずか10%の富裕層が株式の93%を保有する。残りの株を58%の世帯保有する。退職者の多くは401(k)や個人年金で、株式市場に投資する。アメリカ経済は、S&P500やナスダックへの投資によって成り立っている。S&P500は8月第1週、大きく下落した。ナスダック指数は、ハイテク企業の比重が高く、S&P500指数よりもさらに下落する。
なぜブラックマンデーが起きたのか?金融専門紙が挙げている理由がいくつかある。
第1に、円キャリートレードの巻き戻し。連邦準備制度理事会(FRB)と日銀の金利の違いによるもの。低金利の日本円で借金をし、米ドルを買い、アメリカ株やアメリカ債に投資する。
日銀が金利を引き上げると、世界的なマージンコールが起こる。投資家は負債を返済するために、より多くの担保を提供しなければならない。アメリカ株を売る。日経平均株価は、大幅に下落した。円キャリートレードの巻き戻しである。
一部のエコノミストは、これがAIバブルあるいはビッグ・テック・バブルの崩壊の始まりと予想する。大企業は人工知能技術に数千億ドルを費やしてきた。AIは、偉大な革命的テクノロジーではないかもしれない。
暴落はFRBがあまりにも長いあいだ高すぎる金利を維持してきた、と言う人もいる。
アメリカの失業率が多くの人の予想以上に急速に上昇することを指摘する。
地政学的危機がある:イスラエルとイラン、ガザ空爆、ベネズエラでクーデター、ウクライナ戦争、NATOとロシア。
今日は、マイケル・ハドソン氏を迎える。
マイケル・ハドソン:2008年以来、経済全体が縮小を続けている。不況は、全米経済研究所が作り出した幻想だ。モデルは、経済は正弦曲線で動くという原理だ。経済が下降すると、労働力が安くなり、失業者が出て、再び雇用され、雇用主はより多くの利益を上げる。
これは過去5000年間、経済が機能してきた方法ではない。不況からの回復はすべて高い債務水準から始まる。
今、経済は債務負担能力のピークに達し、回復する見込みはない。負債を抱えたまま経済という車を運転し、ブレーキを踏むようなものだ。
負債は間接費である。負債は経済の90%によって支払われている。賃金労働者だけでなく、企業、都市、州、連邦政府などである。この利益をすべて受け取るのは債権者層、基本的には10%、あるいは1%、特に0.1%である。
景気が回復するかどうかではなく、回復する兆しがまったく見えない。
2008年の暴落以来、株式価格と金融セクターの人為的な上昇は、上位5%か1%にもたらされた。経済全体の90%は、実際には縮小した。
国民所得の伸びの多くは金融収益である。利払いはGDPの一部としてカウントされる。違約金もGDPの一部である。住宅価格の上昇もGDPの一部である。
しかし、人々が住宅を購入するのはますます難しくなり、高価格帯の住宅を購入するために住宅ローンをますます多く支払わなければならない。これらは好景気と呼ばれているが、まったく好景気ではない。生産と消費の実体経済を貧しくする。しかし、金融経済には利益をもたらす。
金融経済の利益は、GDPの一部としてではなく、GDPから差し引かれたものとして見るべきである。それは本当の生産ではない。金融部門は生産していない。独占企業である不動産業や家賃搾取業は生産していない。それは実体経済から家賃を搾取する側、独占企業や不動産投機家、金融部門への移転である。
金融セクターを経済の原動力と見なせば、経済とは、90%の人々を貧しくすることで利益を得ている10%の人々の経済である。経済全体を貧しくする。
2008年以来、景気は回復していない。アメリカは着実な金融収縮、着実な衰退の中にいる。それが新自由主義的成長だ。
ベン・ノートン:国際的にも似たようなことが起きている。日銀を非難する人々がいる。人々が25ベーシスポイントの引き上げに固執するのは少々間抜けに見えるかもしれないが、実際には重要だ。日本は1999年までZIRP(ゼロ金利政策)をとっていた。アメリカの金利は5%以上高かった。投資家が円建てで借金をし、それを元手にアメリカ株やアメリカ債、収益率の高い日本株を購入した。グローバル・アービトラージ(裁定取引)で儲ける。
日銀が利上げに踏み切ると言った。金利差は縮小する。世界的なマージンコールが起きる。レバレッジ取引では、円建て借金で株や債券を買いあさった。金利上昇で割高になった借金を返済するために株を売らざるを得ない。
これがブラックマンデーの説明のひとつである。この説明をどう思いますか?
マイケル・ハドソン:日本のキャリートレードは、2008年から2009年にかけてアメリカ経済に起こったこととまったく同じだ。
なぜ株式市場が暴落するのかといえば、ほとんどの株が信用取引で買われているからだ。株式の価格、つまり上昇分と配当金が、支払わなければならない利子よりも大きくなることを期待する。それが裁定取引である。キャリー・トレードは、この裁定取引の別名にすぎない。
2008年の暴落後、アメリカのゼロ金利政策によってこれが促進された。FRBが裁定取引に有利なオッズを与えたおかげで、毎年毎年、すべてが確実に勝利するように見えた。
昨年、シリコンバレー銀行が経営破綻した。なぜか。投機家たちは、低金利で借り入れ、配当率が高く値上がり率の高い株を買った。借り入れた資金が株式市場に流入し、不動産や債券市場にも流入した。連邦準備制度理事会(FRB)が、労働者の賃金水準に対する階級闘争の一環として、失業率を高めるために利上げに踏み切った。これが株式市場や債券市場に対する金融戦争となった。
ゼロ金利政策は、日本と同様、借金を煽るだけだった。生産と消費という実体経済の裏付けは皆無だ。日本で起きたことはアメリカで起きたことを見れば理解しやすい。
日本には国際収支と国際為替レートのねじれがあった。単に財政的に儲かっただけだ。
アメリカやヨーロッパの経済が、このような状況で非工業化し、金融化された。
市場が暴落するのはなぜか、と問うとき、この暴落の原因をどこまで深く追求するかによる。
危機は常に発生する。民営化と金融化は経済を二極化させる。ある部分を貧困化させ、債務を抱えた部分が支払えなくなると、支払の連鎖に断絶を生じさせる。
多くの場合、破たんは単なる偶然、経済学者が外生的と呼ぶものである。
暴落は必ず起こる。20世紀初頭までの100年間、金融危機のほとんどは農作物が収穫される秋に起こった。
農業部門は農作物を運ぶためにニューヨークやボストン、フィラデルフィアなどの銀行から借り入れを行った。預金が引き出され、銀行が支払いに充てる資金がなくなった。支払いの連鎖が途切れ、全体の落ち込みを引き起こした。それ以来のクラッシュのモデルだ。
今日の場合、ゼロ金利政策は、日本と同様、2009年以降に債務超過に陥った銀行を救済するためだった。FRBの解決策は、産業経済を回復させることではない。クレジットを氾濫させて銀行の支払能力を維持した。それは、誰かの借金を意味する。
金利を下げて金融部門が裁定取引の利益を得られるようにした。経済全体の債務超過が先送りされたに過ぎない。
話を日本とキャリートレードに戻そう。
日本が金利を引き上げたのは、引き金に過ぎない。
いったんゼロ金利政策をとったら、簡単に元に戻すことはできない。ゼロ金利政策が終わり、金利を上げ始めると、低金利時に行っていた、負債を財源とする裁定取引の上部構造全体を引き下げることになる。すべてが清算される。
日本のキャリートレードで何が起こったかを説明しよう。投機筋は日本の銀行から低金利で借り入れた。FRBが利上げを始めると、より高い金利のアメリカ債や他国の債券(主にアメリカ債)を買う。円と米ドルの交換である。円で借りる。円を使ってアメリカの通貨を買い、より高い金利のアメリカ債を買う。円が外国為替市場に投入され、円の為替レートが下がり、ドルの為替レートを押し上げた。
FRBが金利を上げ、貿易赤字にもかかわらず、米ドルが上昇する。それはドルレートの金融的な上昇であり、基礎となる経済の健全性を反映したものではない。
日本がこの裁定取引を止めると決めたとき、円を借りてドルを買っていた投資家は、裁定取引で利益を上げることができない。そこで彼らはポジションを解消した。つまり、日本の銀行に借りたお金を返す資金を得るために、アメリカの(株を)売った。
ドルが売られ、日本円が買われた。ドルから円への資金移動が行われた。
金融業界によるコンピューター・プログラムや戦略は、単に差益を得ることに基づいている。株式の平均取引時間はわずか数分である。
取引の大部分を見ると、それはボラティリティと呼ばれるもので、すべてコンピューターが動かす。コンピューターは、トレンドがあるから買う、流れに乗る、と言うように設計されている。1分後に利益確定しよう。1分後に価格変動が起こる。
これらはすべて短期的だ。コンピュータープログラムはそうやってお金を稼ぐ。
それは人工知能、AIと呼ばれる。人工的な愚かさと言ってもいい。それが経済全体にどのような影響を与えるかを考慮していない。
相互接続されたシステミックな裁定取引はすべて中断され、信用取引で資金を調達していた債務者が突然損失をこうむった。銀行がマージンコールをかける。
銅の価格が下がり、あらゆる価格が下がった。すべてがシステム化された。コンピューターによる自動売買が延々と続く。
8月5日、大手証券会社の電話回線とコンピュータ化された投資用回線はほとんどすべてクラッシュした。経済がきれいな正弦曲線で動くことはなく、ゆっくりと上昇し、急速に下降する。ラチェット効果だ。
いったん急速な下落が始まると、小口投資家、年金基金、大手金融会社以外のほとんどの人々は、ただ座って資産の市場価格が下がるのを見守るしかなかった。
彼らが富を失ったとは言えない。金融カウンターが潰れただけだ。彼らはこれから抜け出せなかった。
ベン・ノートン:日本円だけでなく、中国の人民元も同様だ。人民元は米ドルに対して少し上昇した。中国経済は弱体化するはずだ。人民元は資本規制によって支えられているだけで、中国が資本規制を解除すれば通貨は暴落すると言う。
アメリカ市場が危機に瀕したとき、人民元が上昇した。なぜか?
マイケル・ハドソン:人民元が暴騰したわけではない。アメリカ政府は、中国に対して制裁を課す。中国と中国証券への投資をやめて、売ったほうがいいはずだ。
地政学を見てみよう。ロシアの埋蔵金が差し押さえられるのを中国は見た。西側がロシアにしたことを、いつ我々にするか。BRICsは、中国経済が成長し、西側同盟国や衛星国が停滞するのを見ている。成長し、Win-Winの状況をもたらしてくれる世界の一部に貿易や投資の方向を変える。石油輸出国にドル建てではなく中国通貨建てで石油を売らせる。ドル離れが起こる。
中国への動きがあるというよりも、対中制裁、対中脅威、脱ドル、アメリカがBRICsから孤立するという事実が推進力である。アメリカは自分の足を撃っている。
ベン・ノートン:もう一つの側面は、AIバブル。AI技術には多くの投資が行われてきた。
大手AI企業の株価は大幅に上昇した。株式市場の成長は、かつてFAANGと呼ばれていた数社の企業による。現在はマグニフィセント・セブン(MAG7)と呼ばれている。アップル、アマゾン、マイクロソフト、フェイスブックを所有するメタ、グーグルのアルファベット、エヌビディアだ。
テスラはMAG7に入っていたが、株価が下落したため除外された。AIバブルの崩壊の始まりではないかと疑う人もいる。
ナスダック指数を見ると、S&P500指数よりもはるかに下落した。大手ハイテク企業ほど大きな打撃を受けた。大手チップメーカーのインテルが、従業員の約15%に当たる1万5000人を解雇すると発表した。ブラックマンデーの直前に、ウォーレン・バフェットはアップル株の約半分を売却した。バークシャー・ハサウェイは2023年末時点でアップルに約1740億ドルを投資していた。その約半分、約800億ドルを売却した。
マイケル・ハドソン:1998年のドットコムバブルによく似ている。アップルはAIに見切りをつけた。アップルの収益は、配当の引き上げか自社株買いに費やされてきた。企業の目的はAI研究開発をすることではない。研究開発をすれば、その分収益が減る。
新しい研究開発や資本形成にお金を使えば、遅れをとる。アップルも他のアメリカ企業も、中国に遅れをとっている。中国は、株価を上げ財を成すために企業を利用するのではない。新しい技術や生産を生み出すために企業を利用する。中国は、GDPや国民所得にそれを含めている。
バイデン政権は中国を攻撃したい。インテル市場の3分の1から4割は中国だ。インテルは最大の市場を失った。アメリカは、シンガポールのようなアジア諸国がチップを買って中国に売るのも阻止した。インテルは落ち込んだ。ハイテク企業からアジア市場を奪えば、新しい技術に投資する資金がなくなってしまう。
アメリカ企業は、研究開発の代わりに配当や自社株買いで収益を上げ、株価を高くすることを財務責任者に任せる。当然、中国やアジア諸国、韓国などが研究開発でリードする。
新自由主義経済には、富は産業投資ではなく、金銭的に作るものという考えがある。富は、長期的な経済の工業化によってではなく、脱工業化と短期的な生活様式で作られる。
それが経済が直面する本質的問題だ。だからこそ、ウォーレン・バフェットは、アップルはもう終わったと悟った。研究開発に参加せず、情報技術におけるライバルである中国を凌駕することを宣言した。それが月曜日(8月5日)に起こったことだ。
株式市場の投資アドバイザーは、なぜAI企業が急成長するのかわからないと言った。かつてのアマゾンのように、株価は、配当の割引率をはるかに超えて上昇する。
エヌビディアやこのような利益をもたらする他の企業を買っている人は、配当で儲けているのではなく、キャピタルゲインで儲けたい。レンドに乗り、ピークが終る前に売り抜ける。利益をすべて手にする。いったん売ろうとすれば、誰もが同時に売り時を知る。電話でブローカーに連絡することもできない。ネットで売りボタンを押しても、売り手が殺到する。レバレッジを最大化するために信用取引で株を買った場合はなおさらだ。
借金を返済しなければならなくなると、突然、売り急ぐ。融資を清算する。それが暴落である。
単に技術的な金融クラッシュではない。AI分野で一攫千金を狙うという新自由主義の暴落である。研究開発にではなく、ネズミ講でに一攫千金である。
ウォーレン・バフェットは、ねずみ講から先に手を引いた。彼が撤退するのを見て、他の人々も撤退した。AI企業は配当金を払っていない。最大の市場である中国に売れない。AI産業を制裁し、最大の市場と切らせた。アメリカは自国の経済に制裁を加えた。
それでどうなったか?コンピューターチップやその他の技術で自給自足する。独自のAIを開発する。TikTokはその一例だ。中国人とアジア人が儲かっているなら、その会社をアメリカ人に売らなければならない。利益はアメリカの投資家のものでなければならない。
地政学的にクレイジーだ。アメリカは中国を痛めつけ、経済を混乱させ、乗っ取りたい。南米の原材料輸出業者やアフリカの輸出業者を扱ったように、我々はアジアを扱う。アジアはアメリカに利益をもたらすために存在するのだから、もしアメリカがアジアから利益を得られなければ、アジアを破滅させる。
中国は独自の道を歩まざるを得ない。アジアがAIの最大の市場だった。ネオコンはその市場を破壊した。AI産業におけるアメリカの潜在的リーダーシップを破壊した。なぜAI株を買うか?
ベン・ノートン:地政学の影響はどうなるのか?アメリカ市場で起きていることが地政学的にどのような意味を持つのか?
マイケル・ハドソン:すべてが地政学だ。世界経済全体が全体的なシステムであり、人体や天候と同じように、全体的なシステムの一部だ。
米軍は、あらゆる軍事ゲームにおいて、アメリカは負ける、と言う。アメリカの外交官たちはイランに行き、「イスラエルに対して、見合った対応をしてくれないか」と言った。イランはおそらくこう言う。「アメリカの近東での駐留と軍事基地を終わらせるつもりだ。100年間続けてきたゲームは終わった。逆転は不可能だ。変化は不可逆的だ。」
ロシアの支援がある。レバノンの支持もある。近隣諸国の支援もある。ユーラシア大陸全土の軍事基地を狙う。ゲームは終わりだ。
グローバリゼーションとは、世界の多数派がアメリカや北大西洋条約機構(NATO)諸国、その黄金の10億人の人口、その他の国々から離れることである。
株式市場はどうなるのか?株式市場だけでなく、工業生産を海外に移した経済圏はどうなるのか。経済の非工業化が進んでいる。ヨーロッパ企業はすでに、より安価な石油やガスを購入できるアメリカやアジア、さらには中国に移転する。
世界中が方向転換を迫られている。株式市場や金融市場を脇に追いやるような構造的な変化だ。
すべては地政学的な文脈の中にある。地政学的な次元を考慮した人工的なテクノロジーや株式取引プログラムは存在しない。
FRBは超低金利、さらにはゼロ金利で量的緩和を行い、誰も買いたがらない有害資産である住宅ローン担保証券などの資産を買い上げた。資産価格をつり上げ、株式市場に大きなバブルをもたらした。金持ちはその恩恵を受けた。彼らはますます金持ちになった。格差は著しく悪化した。
ベン・ノートン:多くの年金受給者や定年退職者が貯蓄の多くをS&P500や株式市場に預けている。
マイケル・ハドソン:アメリカが株式市場の下落を止めるためにできることは何もない。株式市場を押し上げるために直接できることは何もない。2008年以降の政策はすべて、実質的な金利引き下げだった。しかし、ゼロ金利に戻しても、株式市場の下落を止めることはできない。
これは不可逆的なプロセスだ。時計の針を戻すには、膨大に増えた金融負債を元に戻さなければならない。負債のほとんどは金融セクターの中にあり、それ以外の経済セクターより多い。これは巻き戻せない。
金融化を止め、FRBをアメリカ財務省に統合し、生産手段を増やすためだけに信用と銀行を創設する。そうなればアメリカではなくなるし、新自由主義国でもなくなる。
誰が株式市場に関わっているかというと、その多くはアメリカの年金基金である。企業は年金基金を積み立てることを好まない。年金基金は必死で儲けようとする。年金や社会保障を、金融ベースで組織化することがいかにクレイジーであったか。
年金基金は金儲けに必死になり、民間資本(プライベート・エクイティ)会社に資金を回す。
これは本質的に搾取である。企業が年金基金をプライベート・エクイティ会社に貸し、プライベート・エクイティが会社を買収して大儲けしたとしよう。プライベート・エクイティに資金を投入した企業そのものを買収するかもしれない。
プライベート・エクイティ会社が最初にすることは、会社の建物と不動産を当社の子会社に売却し、賃貸借契約を結んで、賃料を支払うことにする。その不動産の売却価格を使って、配当金(特別配当)を支払う。プライベート・エクイティは、売却金を使って、配当金を支払い、イギリスのテムズ・ウォーターのような企業を設立する。
配当金を出すため、あるいは自社株買いをするために資金を借り、株価を上げ、既存の株主が儲けられる限り、それを続ける。
不動産を売却し、負債を背負うことで、企業はより高い負債を抱える。以前は支払う必要がなかったビルや不動産に、より高い営業賃貸料を支払わなければならなくなる。
プライベート・エクイティ会社は大儲けし、投資家と会社の株は上昇した。しかし、ある時点で、この債務返済と不動産コストのほとんどは、会社に利益を残さない。支払いに十分な資金が企業にない。サプライヤーへの支払いが滞る。トイザらスやシアーズのように倒産する。
それがプライベート・エクイティであり、企業を倒産に追い込むことで金儲けをする。それが新自由主義だ。金融資産ブームを作り出すことは、一種の脱工業化の婉曲表現だ。
ウォール街はそれを「富の創造」と呼び、買収した企業を空っぽにするためにどれだけ高い報酬を得るかで表現する。これが欧米経済全体で起こっている。
S&P指数を回復させるためにアメリカ政府やFRBは何ができるか?シティ・バンク、チェース・マンハッタン、バンク・オブ・アメリカを救済する。政治的に最もコネクションのある企業、最大の選挙献金者、最大のロビイストを持つ企業。
救済される側には、年金基金や小口投資家は含まれない。2008年のオバマ大統領による救済措置モデルだ。実体経済に基盤を置かない金融バブルの復活はありえない。
ベン・ノートン:日本を見ると、GDPの200%以上の公的債務を抱え、低金利を維持するだけで、債務のバブルを延々と汲み上げる。
金利を下げ、借金コストを無料にし、すべての企業がレバレッジを効かせ続けることができるようにすれば、このバブルを煽り続けることができると言う人々に、あなたは何と言う?それを阻んでいるのはインフレだけだ。その議論にどう答える?
マイケル・ハドソン:間違った問題の組み立て方だ。消費財やサービスの価格インフレは、金利以上に上昇する。億万長者は、消費者物価指数が上がろうが、商品やサービスの価格が上がろうが気にしない。株式や債券を買い増しする。金融セクターと金融化された1%の富裕層が気にかけるのは、経済的に儲けることだ。
生産と消費の実体経済とのつながりはなく、略奪し、空っぽにし、企業を解体して負債を負わせ、その過程で空っぽの企業倒産殻を残して金儲けをする以外にはない。
投資家を儲けさせなければならない、投資家に利子を与え続けなければならない、という考え方は、金融部門が実体経済の一部であるという前提に立っているため、まったく誤った世界の見方である。
経済の余剰分を吸い取る、経済に巻き付いた層、あるいは寄生虫のようなものだ。
私の著書『Killing the Host(宿主を殺す)』はまさにこのプロセスをテーマにする。
金融部門は国民を宣伝するために多額の資金を投入し、あたかも金融部門が実体経済の一部であるかのように誤魔化し、その成長を助けている。
ベン・ノートン:とても重要なポイントです。
ほとんどのエコノミストが使っているインフレデータは、PCEであれCPIであれ、本当のインフレデータではない。アメリカだけでなく、新自由主義経済の政策は、富裕層の資産を膨張させるために、平均的な労働者の富を奪ってきた。
資産価格のインフレはキャピタルゲインと呼ばれる。それは産業キャピタル・ゲインではなく、金融キャピタル・ゲインだ。これらの経済的利益はどこに行き着くのか?
マイケル・ハドソン:経済が民間部門の負債をほとんど抱えていなかった1945年から、現在のような莫大な負債を抱えるようになった時代が、限界に達した。
ベン・ノートン:資本収益はが負債の増加の裏返しである。ある人の負債は別の人の資産だから。つまり、資本収益率が経済成長率よりも大きいのは、返済できない負債が膨れ上がっているからだ。
マイケル・ハドソン:トマス・ピケティ(21世紀の資本主義』)と何度も議論した。
彼の解決策は、相続した富に課税すればいい。相続に課税すれば、富はなくなる。
19世紀に大きな進歩はなかった。200年経った今、まだ進展はない。彼は債務問題に焦点を当てていない。私は借金の問題に重点を置いている。
ベン・ノートン:この分析に欠けている他の要因は何か?
マイケル・ハドソン:主流メディアの一般的な議論に欠けているのは、長期的な視点とその地政学的な背景だ。
経済は二極化する。経済の90%は、債権者である10%に借金を負っている。
年金は支払えない借金である。政府には年金保険基金があるが、すべての年金会社の不足分を支払うだけの資金がない。アメリカ政府は、定年退職の年齢を引き上げなければならない。
バイデン政権は年金問題に対して、素晴らしい解決策を持っている。マスクは着用せず、手を洗うだけ。たくさんの人々がパンデミックで死ぬのを待つ。
経済的に儲けることは、ほとんどが経済を非工業化する略奪的な政策によって行われている。それが、アメリカやヨーロッパの経済が非工業化した理由だ。
人々が気づいていないのは、反政府的でリバタリアン的な議論が多く、政府は経済計画を放棄し、自由市場になると考えていることだ。しかし、経済計画を放棄したとき、それは本当にあらゆる経済が計画されたものであり、ウォール街やロンドン・シティ、パリの証券取引所、日本の日経やその他の金融センターに経済計画を放棄したことになる。
彼らの目的は財政的に儲けることであり、非金融経済の成長を助けることではない。このような金銭的な利益は移転支払いである。
国民所得・生産物勘定全体を再構築し、金融サービスを控除項目として扱う必要がある。多くのサービスは生産的なものであり、金融サービスでもなければ、FIREセクターのサービスでもなく、独占サービスでもなく、銀行が借り手に延滞料を請求するサービスでもない。それは本当のサービスではなく、国民総生産勘定には全く属さない採掘的移転支払である。
地政学だ。アメリカはもはや、国家が自国の経済と人口をどのように発展させるかを決定する要素である世界にいない。
誰に投票するかは問題ではない。特に今回のアメリカの選挙では。
アメリカからヨーロッパに至るまで、今日の西側諸国は、超国家的な権力、金融権力の代理人であると同時に、軍事的手段によって支配を強要する権力である。
金融化された新自由主義システムに全世界を従わせようとし、それを民主主義と婉曲に表現する。実際には有権者も政府も政治的役割をほとんど果たしていない。政府は、単に自分たちでお金を作るのではなく、金融部門から借りられるようにする債権者重視のルールを課すことで、資金を集めなければならない。
中国が工業化に投資して資金を供給しようとするとき、中国人民銀行を通じてお金を印刷するだけだ。欧米に存在するような債権者階級、金融階級は存在しない。
アメリカは、文明的と呼べるような経済システムではない。西側諸国がこのような道を歩んでいるのとは別の選択肢があるという事実が、議論から取り残されている。
中国やロシア、BRICsがアメリカやNATO、世界銀行、IMFのシステムから手を引いている。彼らは、教科書に書かれているような、産業資本主義が本来あるべき姿を取り戻し、社会主義へと発展させようとする。社会主義とは、政府が基本的な生活必需品を補助金付きで提供することで、経済の競争力を高め、企業や産業界の雇用主が莫大な賃金を支払う必要がないようにする。
アメリカの経済とは、まったく別の分類だ。経済とは何かという最も基本的な前提に疑問を投げかけることになる。
もしあなたが、経済の唯一の種類は西洋、アメリカスタイル、自由化、新自由主義化された経済だと信じているなら、中国が本当に離陸できたとは思わない。文明が飛躍できたと信じることもできない。
もしミルトン・フリードマンがタイムマシンに乗ってシュメールやバビロニアに戻り、「経済を組織化する方法は、すべてを民営化し、負債をすべて返済させる」と言ったら、紀元前2000年にすでにローマ帝国が滅亡したような結末を迎えていた。
もっと長い目で見れば、アリストテレスが言うところの究極の原因は、2500年前にさかのぼる。
西洋文明は、近東文明やアジア・ユーラシア文明とは異なる文明となった。異なる道を歩んだ。他の文明はすべて、長い目で見れば、借金が大きくなりすぎて払えなくなったときに帳消しにした。
作物が不作になると借金を帳消しにする支配者がいた。もし借金を帳消しにしなければ、耕作者は支払いができなくなり、債権者の束縛に陥ってしまう。
紀元前800年頃、ギリシアとローマがくっついたり、取引されたりするようになったとき、ギリシアとローマは西欧の経済とともに、神の王権や借金を帳消しにする権限を持つ王を持たなかった。地元の酋長や軍閥が債権者となった。彼らには債務帳消しの伝統がなかった。
彼らは経済全体を貧しくした。ギリシャとローマは ローマ帝国の崩壊の一端を担った 借金が大きくなりすぎて経済全体が貧しくなった。1%、あるいは0.1%の人々が富を得、すべての土地を手に入れ 借金を抱えた人々を農奴にした。
経済が支払う能力を上回るペースで負債が増加する傾向は、過去2500年間も続いてきた。
これが今日につながっている。同じ構造だ。経済の成長を第1に考える政府ではなく、寡頭政治が行われている。
金融部門は、不動産、保険、独占企業、鉱業会社などとの共生的なつながりを構築し、天然資源のレントを生み出した。実体経済は縮小する。
バイデン大統領やポール・クルーグマンが、「経済が悪くなっているのに、どうして文句が言えるのか?株式市場の好調ぶりを見よ。」という。
宝くじが当たれば、1%の仲間入りができるかもしれない。産業経済の一部となって賃金を稼いでも、成功することはない。西洋社会の大きな盲点である。盲点とは、生産性や生活水準が向上しないという失敗を、純粋に財政的な解決策で解決できると考えていることである。
政府ができることは敗者を救済することだけであり、選挙資金提供者、寄付者層、政治的につながりのある金融部門を救済するだけだ。
国民全体を救済するわけでもなく、年金基金を救済するわけでもなく、住宅所有者や消費者の債務不履行経済を救済するわけでもない。
ベン・ノートン:最後にふさわしい言葉だと思う。マイケルに感謝したい。マイケル・ハドソンの記事や著書をもっと読みたい方は、Michael-Hudson.comにリンクがあります。
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