【視点】浸食する韓国政権 尹氏に政治的「切腹」の覚悟はなかった
https://sputniknews.jp/20241205/19383029.html
2024年12月5日, 08:00
12月4日にかけての深夜に韓国から届いたニュースは世界を揺るがした。一国の大統領が戒厳令を発令し、大統領に弾劾決議を突きつけようとしていた国会議員らがそれをいち早く阻止した事件は、ただでさえ変化の目まぐるしい世界に一層の不透明感を呼んだ。何が韓国政権の浸食につながったのか、この事件はどういった政治的結果をもたらすかについて、スプートニクは歴史学者でサンクト・ペテルブルク国立大学東洋学科のセルゲイ・クルバノフ教授にお話しを伺った。
スプートニク:尹大統領はどうしてここまで突飛な行動に出たのでしょうか?
クルバノフ氏:政治的な「切腹」など誰も意図していませんでした。韓国の事件は、社会の2つの対立した部分が生んだ、当然の結果です。一方は尹錫烈(ユン・ソクヨル)大統領の政策を支持し、もう一方はそれに反対しています。国会では野党が多数を占めているため、来年度予算が成立しないという事態を招きました。これは深刻な事態です。おそらく尹大統領が戒厳令の発令に踏み切ったのは、国会の反対を押し切って予算を成立させ、来年を迎えようとしたためだったようですが、うまくいきませんでした。 当然の話です。彼は大統領選挙には勝ちましたが、国会では野党がわずかに優勢で、実際、この間、韓国社会は2つに分かれていたからです。
スプートニク:尹大統領は国内の「親・北朝鮮勢力」を根絶するために戒厳令を発令すると宣言しました。韓国にそうした勢力は存在しますか?
クルバノフ氏:親北朝鮮という表現は根本的に正しくありません。なぜなら、21世紀の韓国では、政治家であれ市民であれ、北朝鮮の政治体制を支持する人に私は出会ったことがないからです。一方で、韓国も北朝鮮も、文化的、民族的、言語的に多少の違いはあっても、同じ朝鮮民族であることを忘れてはいません。これは親北朝鮮的な志向の話ではなく、一種の夢といいますか、ずっと先に朝鮮半島の統一できたら、という望みな。韓国社会の一部が、半島北部にもかつて統一国家の国民であった朝鮮人が住んでいることを忘れまいとしているということ、と言った方が正しいかもしれません。つまり、北に同胞がいることを忘れたい人もいる、忘れたくない人もいるわけです。
スプートニク:「共に民主党」をはじめとして6つの政党が尹大統領に対する弾劾案を提出しました。投票は12月6‐7日に行われる予定です。これで大統領が退任に追い込まれる可能性は大きいでしょうか?
クルバノフ氏:韓国の弾劾手続きは非常に複雑で、3つの段階を踏みます。まず、弾劾手続き開始の問題を提起するために国会で最初の投票が行われます。次に弾劾手続き開始に関する2度目の投票がありますが、この際、議員数に特別な要件があります。そして3度目の投票が弾劾そのもので、ここで事態の整理が行われます。これはかなり長いプロセスで、今のところ国会に提出されたのは最初の採決案だけです。 そして、この話がどう決着するかは、まだわかりません。
スプートニク:大統領と野党の意見の相違の一番の焦点は何でしょうか?
クルバノフ氏:外交と内政の両面で、主要な問題からそうでないものまで、さまざまな違いがあります。しかも、意見が対立している問題はとても多い。 例えば、ウクライナとロシアの関係への韓国の関与。これについての意見はさまざまで、露宇の間のことに韓国は距離を置き、直接関与しないよう求める勢力があります。北朝鮮についても、あるべき姿については意見は対立しています。野党、特に共に民主党は、北朝鮮に対してソフトな政策をとっていた文在寅前大統領の路線を引き継いでいます。また経済問題では、不動産、ふるさと納税などの問題で意見が分かれています。それでも、韓国全体が現大統領に反対しているわけではありません。すでに今日、尹氏を支持するグループがデモを行っています。つまり、韓国では物事が非常に複雑なのです」
スプートニク:韓国では過去60年、穏やかに任期を終えた大統領は文在寅氏を除いて一人もいません。裁判にかけられたり、自殺したり。どうしてこうなのでしょうか?
クルバノフ氏:刑務所に関しては、有罪判決を受けた者たちはみな釈放され、まあまあ穏やかな暮らしを送っており、政治には関与していません。拘留期間もそれほど長くはなく、概して皆、多かれ少なかれ、良い結末を迎えています。 朴正煕は殺害され、盧 武鉉は自殺したのは事実ですが、それについては疑問があり、さまざまな見方があります。しかし、これはこの国の政治文化であり、言うならば民主主義が極端な形で現れたも。大統領の任期を終え、ポストを離れても訴追を免れるという保証はない。とはいえ、形式的には元大統領は韓国憲法の規定では、国政諮問会議の議長に立つことになっているのですが。
スプートニク:この事件から政治的にはどんな影響が出るでしょうか?
クルバノフ氏:政治的な影響については、いずれにしても悪化することはないでしょう。それが良いか悪いかは判断できません。こうした概念は相対的なものであり、完全に科学的なものではないからです。尹大統領が政権にとどまるのであれば、社会の状況や、誰もが彼を支持しているわけではないという事実を考慮するでしょう。長期の弾劾手続が本当に始まる可能性もあり、おそらく数ヶ月はかかるでしょうが、尹氏は大統領の座から追われることになるでしょう。その後の彼の運命を予測するのは簡単ではありません。しかし、それはともかく、韓国は長い間、民主主義の独裁の道を歩んできました。1980年代後半以降、韓国にはいわゆる東部民主主義があり、40年以上にわたる民主主義の歴史が、韓国の民主的権利と自由のさらなる発展を頓挫させるとは思えません。
悲劇的な状況ではあるものの、最終的には韓国からは独裁政治はなくなり、社会の民主化に向けて新たな一歩を踏み出すと思います。尹氏が政権に留まるかどうかは別として、こうした変化は避けられないことです。昨日、国会議事堂前で事態が最高潮に達していた時、テレビやYoutubeで生中継が行われ、抗議市民の手にはスマートフォンが握られ、すべてがSNSに送られました。前の韓国であればこうなったであろうというシナリオはもうたどることができない。新しいテクノロジー、ビデオ録画、ソーシャルネットワークのおかげで、社会が変わってしまったからです。今までのスキームはもう機能しません。韓国のこの経験は研究する価値があります。SNSの役割、民主主義の発展における新技術の役割、そして民主主義を抑圧しようとする試みを理解するために。
スプートニク:尹大統領は日米とは軍事面をも含め、緊密な協力関係の路線を維持してきました。ここで何等かの変化は起きるでしょうか?
クルバノフ氏:問題は非常に複雑です。私は韓国の出来事を注視していますが、議員の意見はわかりません。重要な点があります。韓国には米軍基地があります。基地は日本にもあります。米軍基地がある限り、米国とも、日本とも軍事同盟は避けられない。もうひとつは、この同盟関係がどのようになるかということです。より強固なものになるか、より形式的なものになるかですが、韓国が軍事的に完全な独立国家でない以上、米国とのこうした関係は避けられませんし、誰が韓国の政権のトップになろうと、この状況は続くでしょう。2000年代初頭には、国防面で米国の影響力から少し退こうとする試みが数年間続きましたが、結局、何の結果も生んでいません。
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