2015年5月30日土曜日

PDMのおはなし その3 因果関係の検証

因果関係の検証といえは、これはなにもPDMに限った話ではございません。製造工場など、ボトルネックはつぎつぎと移動する、とかのエリヤフ・ゴールドラット博士ものたまわっておる。(ちなみに彼の著作はたくさん売れすぎていまやブックオフでタダ同然で買えるし、英語版中古も豊富である。新品は買わないほうがいいというビジネス本の典型的な運命を辿っている。)ま、それくらいいつも考えていないといけない問題なのだが、PCM手法ではこれが素人集団にブン投げられていて、民主主義よろしく「プロセスを踏んだらそれが真理」みたいに考える人も多いらしいのだが、そんなわけはない。

というところを実例をあげつつ考えてみようと思う。
P国の自動車産業を振興する、というプロジェクト。そもそものロジックはこうである。P国の自動車生産量は年間13.5万台である。なぜかというと品質が悪いから。品質が悪いのは技術が不足しているからである。だから技術をもった専門家を派遣して指導してもらおう。車が売れない>品質が悪い>技術が低い、ここまでボトルネックを追い込んだのだから<技術を入れたらええやん、という結論でPDMが描かれた。

自動車部品の製造工場を見に行ったとき、我が輩が敬愛する金型の親方、林部師匠が現場のプレス機械の前でこうつぶやいた。
「プレス機の精度を測ってみたらさ、JIS規格2級外なんだよな。」
我が輩は林部師匠に尋ねていわく、「中古でいくらくらいですかね?」林部師匠は、
「250トンで1500万円、450トンならン千万円かな?」と即答したもんだ。
我が輩はかつて働いていた特殊ねじ業界のコストブレークダウンを必死に思い出しつつ、重量がこれくらいの製品なら原材料はどれくらい、儲けでプレス機導入の設備投資を5年で原価償却するのに必要な生産量はどれくらい・・・と追い込んだら、年産ン万個くらいではどんな経営者でも設備投資はためらうでしょう、ということになった。そしてそれをクルマづくりの中川師匠に言ったところ、「経営者は見込みで動くもんですよ。政府が方針をブチ上げたら期待値が増大します。」

つまり本当のボトルネックは、技術レベルが低いことじゃなくて、生産個数が少なすぎること、それに対して政府が無策なことだった。まともなプレス機を導入して減価償却できる生産個数が確保できたら、自由競争社会の経営者たるもの黙っていても設備投資をして、そのうえで技術指導したらまともなパーツができる。逆にJIS規格2級外のプレス機を使っている限り、どんな優秀な専門家が来て技術指導してもパーツの精度は上がらない。

というわけ、PDMには前提条件が付け加えられた。「P国政府が新車購買層に対する優遇税制を実施し、新車生産台数が13.5万台程度となること。」つまりプロジェクトの重点は現場への技術移転ではなくて、政策アドバイスに移りました。購買刺激政策が必要条件で、技術移転は十分条件だったということです。

PDMでは因果関係が一方通行で、それを逆にたどる枠組みが設定されていない。因果関係を検証することを担当者に強いる仕組みがない。だから担当者は現場に足を運ばなければならないし、専門家と現場であーだこーだと議論しなければならない。「ほんとうにそうかな?」という思いつき、現場に足を運ぶマメさ、専門家へのリスペクトと、そのつぶやきを憶えておくセンス。これはロボットにとって代わられない、人間しかできない考える作業です。

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