2015年5月30日土曜日

PDMのおはなし その4 ナレーティブサマリーの危険性

技術者はだいたい無口である。なかには饒舌な人もいるけれど、自分の専門になると無口になる。頭の中には3次元の動きとか、段取りとか、閾値とかフィッシュボーンチャートとかいっぱい詰まっていて、それを素人に説明しろといわれたら困ってしまう。だから無口になる。

我が輩の頭の横にはいつも、タイボスと岩澤工場長と現場ガテン系の石井さんが住みついていて、なにか課題を出したら頭のまわりで3人があーでもないこーでもないと議論をはじめてくれる。タイボスは特殊ネジのタイ工場をマイナスから作り上げた人なので、技術と経営の観点から。岩澤工場長はコスト、段取り、人繰り、フィッシュボーンチャートの観点から。5階から転落しても大丈夫という不死身の石井さんは、切削加工でも溶接でも圧造でもなんとかしてしまうという現場の観点から。
営業が「あの市場のこんなけのシェアを取られました・・。」といったとき、社長が「取り返すぞ!」と会議で宣言したとたん、3人が議論をはじめる。原材料はどこからいくらで調達する、おーい鉄屋さんに問い合わせてくれねーか、加工機械にはアタッチメントが必要、それはドイツから入れたらいくら、いや台湾製ならもっと安い、生産体制は3人1チームで三交代、アブラはオルガニックに変えるんじゃなかったのか、それどこまで進んでるんだオイ?ドリルの寿命ってどれくらいだっけ?工具屋に在庫あるのかヨぉ、3000個削ってから精度どれくらい落ちるかグラフにしてくれよ、パッケージの強度の話はどうなったのさ、そんでもって1個あたりのコストは・・・。

PDMはナレーティブサマリーから始まります。これを営業が書くと、まず失敗します。コストを度外視して販売計画を書くから。経営資源をどれだけこのプロジェクトに振り分けるか、それをいつからいつまで続けるかを判断できるのは社長だけ。だからナレーティブサマリーを書くのは、社長が営業部長だけじゃなくて3人を呼んで議論させて、コストが割り出され、チャートを睨みながら社長が総合的に経営判断して書くべきものです。

戦争なら、ナレーティブサマリーを書くのは文官(外交官)でしょうか。武官は理系なのでロジスティックスの積算。でもここで文官が武官を呼んであれこれ議論しなければ、まともなPDMはできないだろうし、戦争に負けてしまいます。PDMの一番の問題は、一番後に書くべきナレーティブサマリーを、現場を知らない秀才タイプの文官があっさりと書いてしまうことだと思います。

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